ゴースト&ダークネス

1997/04/04 みゆき座
ヴァル・キルマーとマイケル・ダグラスが2頭の人喰いライオンと対決する。
19世紀末のアフリカで起こった実話を映画化。by K. Hattori



 ヴァル・キルマーのファンは必見の映画です。『D.N.A.』を観て「だまされた!」「ヴァル・キルマーは脇役じゃねぇか!」と激怒した皆さん、お待たせしました。今回のキルマーは文句なしの主役。しかも相手役にマイケル・ダグラスを迎えて、大いに男っぷりを上げました。キルマーのファンとしては、『D.N.A.』を観るのが辛かったよね。彼も露骨にふてくされてましたもんね。ヴァル・キルマーの芝居では、過去に『トゥームストーン』のドク・ホリデイ役が出色でしたが、今回はそれ以上の出来ばえだと思います。単身赴任先のアフリカで、人喰いライオンの出没にきりきり舞いさせられる技師を、等身大のヒーローとして演じきってました。共演は、プロデューサーも兼ねているマイケル・ダグラス。ダグラスの登場と退場シーンはすごく格好いいぞ。

 この映画は実話をもとにしているそうです。1898年のアフリカ。イギリス人技師のパターソンは、鉄道敷設に必要な橋の建設を命じられ、身重の妻を残してひとりアフリカに向かいます。順調に進むかに見えた工事でしたが、2頭の人喰いライオンが出没したことで現場は大混乱。労働者たちは浮き足立ち、工事は遅々として進まなくなる。パターソンは現地ハンターのレミントンと協力しながら、人喰いライオンと対決することになる。

 映画の素材としては面白いものなんですが、僕はいまひとつのれませんでした。一番の問題は、人喰いライオンがあまり恐く見えないことにある。スピルバーグが『ジョーズ』で観客を震え上がらせたように、この映画でもライオンを見た観客がイスから飛び上がるぐらい怖がらせなくちゃいけないはず。迷信深い現地の人々を恐怖におののかせ、合理主義者であるはずの主人公にさえ畏怖の念を抱かせるモンスターにしては、ライオンがライオンにしか見えなかったのは残念。

 舞台設定や小さなエピソードや道具立てを工夫して、ライオンがほとんど神懸り的な動物に見えるような脚本にはなっているんです。大勢の人間の中から狙いすましたように特定の人物を殺すとか、見張りを察知して手薄なところから進入するとか、至近距離から撃った数十発の弾がかすりもしないとか、鋼鉄の檻をやぶってしまう怪力とか……。そこで描かれているのはライオンという生き物ではなく、自然界の力を一身にまとった、野蛮で狂暴な神そのものです。ところがそれを演出する段階で、荒ぶる神がただのライオンになってしまう。ヴァル・キルマーのライフルが不発になるシーンも、あれはライオンが持つ超自然的な力によって弾が止まったのだ、と観客に思わせなくちゃ駄目なんだけどなぁ……。

 ライオンの見せ方で感心したのは、ライオンが茂みや森の中で見えるか見えないかのギリギリで動き回る場面、音だけで圧倒的な存在感を見せつける旧病院の場面、残虐な殺戮で一瞬にして数十人の命を奪う病院襲撃など。要するにライオンの姿が全部見えてしまわない方が、恐い場面に仕上がるみたいです。


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