クレマスター1

1997/03/13 ユーロ・スペース2
これがアート(芸術)だと言うのなら最近のアートはレベルが低いね。
こんな引用はバズビー・バークレーに失礼です。by K. Hattori



 ユーロスペースでレイトショー上映されていた映画を、最終日に観に行きました。空いていると思ったら大間違いで、場内は通路に2列の立ち見が出る満席状態。入り口付近にも人が溜まり、ドアが閉まりにくくなるほどでした。でも、それまでして観るような映画か? 製作・監督はマシュー・バーニーというアーティストだそうで、世田谷美術館で開催されている「デ・ジェンダリズム〜回帰する身体」という美術展との連動企画です。そちらから流れてきている客もいるのかもしれません。正味40分のアートフィルムなのですが、僕が観たところ中身はバズビー・バクレーの出来損ないイミテーションといったところ。バークレーからのあからさまな引用を行いながら、その足元にも及んでいません。

 フットボールスタジアムの上で幾何学模様のマスゲームを繰り広げる女性ダンサーたちと、その上空をに浮かぶ2隻の飛行船の内部が互い違いに描かれます。飛行船のゴンドラにはそれぞれ4人の女性搭乗員が乗り込み、ゴンドラの中央には山盛りのブドウを載せたテーブル。テーブルの下には白い衣装の女性が隠れていて、テーブルに空いた穴からブドウを引き出してはテーブルの下にこぼす。こぼれたブドウの粒が床に幾何学的な模様を描くと、それに合わせてスタジアムの上でも同じ形態のマスゲームが行われるわけです。映画は全編それの繰り返しで、特にドラマがあるわけではありません。スタジアムのダンサーたちが身につける衣装は、1933年のワーナー映画『ゴールド・ディガーズ』の中のナンバー「シャドウ・ワルツ」から引用されています。

 バズビー・バークレーの作るミュージカルシーンは、多数の女性ダンサーを幾何学的に配置し、個々の単純な動作が組み合わさって万華鏡のような画面を作り出す独自のスタイルを持っています。バークレーの振り付けにはファンが多く、後の映画の中でも、時にパロディとして、時に模倣や引用として、数多くのミュージカル場面が作れらています。例えばケン・ラッセルの『ボーイ・フレンド』ではバークレーの振り付けした映画『四十二番街』から1曲分の振り付けを丸々コピーしているし、ディズニー映画『美女と野獣』ではランプや食器がバークレー流のダンスでヒロインを歓迎し、クルト・ワイルの曲を使ったMTV風の映画『September Songs/9月のクルト・ヴァイル』でもかなりうまくバークレー風のショットを再現していました。僕はバークレーの作る映像が好きですから、こうした模倣や引用が映画の中に登場すると、それだけで大喜びしてしまう。

 これらの映画に比べると『クレマスター1』はバークレーを意識していることを堂々と宣言しているくせに、振り付けの質が低い。僕は最初からバークレー風のショットを期待して観に行ったのだが、期待が大きかった分だけ裏切られた気分だ。画面がスタンダードサイズだった時は「おっ」と思ったけど、それだけだった。模倣するなら模倣するで、もっと完璧に模倣してほしいものだ。


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