いちご同盟

1997/03/05 東邦生命ホール(試写会)
少年少女の物語を真っ正面から描いた力作。岸辺一徳がウマイ!
ここ何年かでこんなに泣けた映画はない。by K. Hattori



 15歳という思春期真っ只中の中学生たちの姿を、真っ正面から描いた力作。あまりにも正攻法の直球勝負なので、観ていてちょっと気恥ずかしくなるほどだが、この正直さや素直さが観客のハートにぐさりと突き刺さる。物語のアウトライン、人物の配置、テーマなどからして、例えば「難病もの」「友情物語」「思春期特有の不安や葛藤を克服する少年の物語」などの線でまとめて語られてしまいそうな映画だが、この映画にはそうした「ひとこと」ではまとめきれない瑞々しさがある。

 物語の中心になるのは3人の中学生。ピアノはうまいけど学業成績はからきしの北沢良一。野球部のエースで四番打者、将来を嘱望されているスポーツマンの羽根木徹也。徹也の幼なじみで、ガンを病む上原直美。中では、徹也を演じた谷口秀哉がいい。

 演技の訓練を受けていない正真正銘の野球少年で、棒読みの台詞をなんとか最後までしゃべれます、というレベルの芝居しかできないのだが、全身が生きるエネルギーに満ち満ちている様子がびんびん伝わってくる。走るシーンが何度も出てくるのだが、この走りっぷりがいかにも「スポーツやってる子!」という、見ていて惚れ惚れするようなコンパクトできびきびした走り。これは本物だけが持っている迫力です。へんに芝居のできる子役を連れてくるより、芝居はできなくても本物の野球少年をキャスティングしてしまうという方法は正解でした。

 無名の少年少女たちが出演する物語を、力のあるベテランの俳優やスタッフがサポートしています。中でも直美の父を演じた岸辺一徳の存在感と、圧倒的な芝居の力に改めて感心しました。子供たちの硬くなりがちな芝居の中に彼が入ると、その瞬間から画面に少しツヤが出て、空間に奥行きや広がりが出てくような気がします。観ているこちらも、彼が出てくると少しホッとするんですね。ホッとさせておいて、彼がやる芝居というのが物すごいから、こちらはカウンターパンチをくらったボクサーのようにノックアウトされてしまう。

 なんでこんなに涙が出るのかわからなくなってしまうぐらい泣かされてしまった映画ですが、そのキーマンはやっぱり岸辺一徳なのです。死んで行く娘に何もすることができず、ただ見守るしかない男親の苦しみ。彼が顔を歪めて、自分の苦しさを良一に訴える場面は胸を打ちます。そして圧巻は映画の大詰め。ベッドの上で激痛に体をのけぞらせながら暴れる娘を、岸辺が力いっぱい押さえつける場面。こうした形で娘と最後の時を迎える父親の気持ちを考えると、もう泣けて泣けてしょうがない。それをベッドの足元でまじろぎもせずに見つめ続ける、良一と徹也の気持ちがまた健気で涙を誘います。

 細かいことを言えば、小さな傷もあるし、バランスの悪いところもある映画です。でもそんな欠点も、この映画の一途なメッセージの前には大きな欠陥じゃない。それに何より、傷つきやすさやバランスの悪さこそが、思春期の特徴なんじゃないだろうか。


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