シェイド

1997/02/17 松竹セントラル1
トム・ベレンジャー演ずる元刑事が、大学教授殺害事件を捜査。
共演のロバート・ダビが映画に厚味を出した。by K. Hattori



 この映画の主人公アーネストを演じたトム・ベレンジャーは軍人や刑事の役を演じるとはまる役者で、最近では『野獣教師』の好演が記憶に新しい。『野獣教師』のベレンジャーは傭兵上がりの学校教師で、高校に巣食う悪を武力で一掃する正義の味方だった。この『シェイド』では大学教授として教壇に立つ姿で登場するため、僕はてっきり彼が別の麻薬組織壊滅を狙って、またしても教師に成りすましているのかと思ってしまった。

 これは映画を続けてみていることによる、一種の既視感のようなもの。映画の作り手側はこうした観客の先入観をうまく利用しているわけで、なかなか的を射たキャスティングと言える。ベレンジャーが登場したことで、観客は少なくとも彼の前身が刑事か兵士か傭兵であることに、素直に納得できるのだ。この規模の映画で、こうした素直さは重要です。『プラトーン』で見せていた荒々しさや精悍さは姿を消したけれど、それが年輪や貫禄になって、ベレンジャーの男っぷりには磨きがかかってきた。今回の役はいつになく弱みを見せる複雑な役柄でしたが、彼はそれを見事に演じきっている。ベレンジャーがこの役にかける意気込みは、彼がこの映画の製作総指揮を兼ねていることからも伝わってきます。

 映画はムードたっぷりで、エロティックな場面もあるミステリーです。監督はベネズエラ出身の女性監督、サロメ・ブレジナー。29歳という年齢に似合わず、なかなか味のある演出ぶり。深い影のある絵作りも、映画のムードを盛り上げています。ヒロインのバレリア・ゴリノも素敵でしたが、主人公の相棒刑事を演じたロバート・ダビの好サポートが映画の格を上げています。彼がコーヒーを飲むのを躊躇する場面など、思わず笑ってしまいました。うまいんですよね。この場面はラストシーンへの複線になっているから、ここで芝居を印象づけないと映画がうまくまとまらない。それをちょっとした仕種だけで、見事にきめてくれるから嬉しくなります。

 役者はなかなかいい芝居を見せてくれるのですが、謎解きミステリーとしてはあまりデキのいい映画ではない。ムードに負けて謎が謎として明確になっていない歯切れの悪さがあるし、細かな複線やエピソードが細切れのパーツのまま放り出されているような印象を受けた。

 行方不明になった金髪のウェイトレスが、主人公を導く幻想の女として登場するのだが、この役割もよくわからなかった。意味はわかるんだけど、結局印象が曖昧なんだよね。だから最後に彼女が姿を消す余韻も、ちょっと弱いと思う。もう少し、主人公の心の奥深くに根を下ろした存在であってほしかったな。(幻のブロンド美女というモチーフは、ちょっとヒッチコックっぽいね。)

 トム・ベレンジャーとバレリア・ゴリノのラブシーンは痛ましく、男なら身につまされる場面ですが、終盤に向けての重要な複線になる部分です。ここに映画のテーマがある。男って悲しいなぁ。とほほ。でも演出しているのが女性なせいか、かなり淡々と撮ってます。


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