FRIED DRAGON FISH

1997/02/09 高田馬場東映パラス
今まで観た岩井俊二の映画の中では最もタイトな演出。
テクニック的には拙い部分も残る93年作品。by K. Hattori



 この内容で上映時間は50分。登場人物も限定されているし、場所もほぼ限定されている。主演は芳本美代子と浅野忠信。主題歌はCHARA。もともとは93年にテレビ放映されたドラマらしい。今まで観た岩井俊二作品の中では、最もタイトな演出。わかりやすすぎる伏線、あからさまなメタファーの提示、情況をすべて台詞で説明してしまう部分など、線の細さや物足りなさは今と同じだが、短い時間に要素を押し込んだ結果、物語はかけ足で進み、そうした欠点もさほど気にならなくなった。

 盗まれた熱帯魚を調査する探偵とデータベース会社のインストラクターが、謀らずして血なまぐさい犯罪の世界を垣間見るという、ありがちなストーリー。インストラクターの芳本美代子が出会う、不思議な少年が浅野忠信。熱帯魚に囲まれて暮らす少年は、獰猛な肉食魚のように、近づく外敵を殺し尽くす。少年の暮らす殺風景な部屋自体が一種の熱帯魚の水槽で、そこに放り込まれた生餌を少年が食っているわけです。このあたりは全部台詞で説明されているので、新しい解釈の余地はない。つまり、ものすごくわかりやすい世界なんだよな。

 わかりやすいと言えばもうひとつ、この映画に登場する人物は、全員同性愛だというのもあからさまですね。『セルロイド・クローゼット』を観た直後だから、そうした面にセンシティブになっているのかもしれないけど、例えば、部屋の中に飼われている少年と彼を飼う男の関係は完全に同性愛的なものだし、探偵とインストラクターの関係にも男女の性愛的なものは介在していない。

 決定的なのは、少年の部屋に殺し屋が送り込まれるエピソード。魚と銃はペニスの象徴ですよね。熱帯魚(ペニス)に囲まれて暮らす少年を殺そうと近づいた男が発射した弾丸は、少年ではなく、少年の服や靴にしか命中しない。この殺し屋は同性愛だけど、肉体そのものより、身につけた衣服が性愛の対象なんだよね。一種のインポとも言える。それを少年に見破られた殺し屋は、パニックを起こす。少年は殺し屋の口に銃身(自分のペニス)を突っ込んで、そこに自分の口から取り出した薬のカプセル(体液をイメージさせます)を押し込み、飲み込ませる。要するに、殺し屋は少年をレイプするつもりで、逆にレイプされてしまったわけです。

 こうした単純な解釈を許してしまう余地は、この映画のあちらこちらに散見している。僕は個人的に、こうした精神分析的解釈を分析を好まないが、それでもこのぐらいすぐにピンとくる。単純すぎるんだよね、描写が。

 こうした場面は、もっとスタイリッシュに、ぞくぞくするぐらい格好よく描いてほしいわけです。この映画では銃の描写がぎこちないし、弾着効果にも弾丸の持つむき出しのパワーが感じられない。過激な血なまぐさい暴力と、魚のような穏やかさの両面性が、浅野演じる少年のキャラクターなのに、暴力の部分に迫力がないんだよ。これは浅野の芝居の問題ではなく、演出の問題です。そのせいで、物語が小さくまとまってしまったのは残念。


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