エビータ

1997/02/01 日劇プラザ
今時ものすごく贅沢に作った正統派の大作ミュージカル映画。
マドンナの熱演が光る彼女の新しい代表作。by K. Hattori



 映画化までに芳しくない噂やエピソードがいろいろと伝わっていただけに、完成が危ぶまれていたミュージカル映画だ。最も芳しくない噂は「オリバー・ストーンが監督をするらしい」という物だったのだが、これだけは何とか回避できた。監督は『フェーム』でミュージカルとも縁が深いアラン・パーカー。この人は『ピンク・フロイド/ザ・ウォール』や『ザ・コミットメンツ』など、音楽物が得意な人です。『ダウンタウン物語』という快作も印象に残っている。これで一安心。

 主人公エバ・ペロンを演じるのはマドンナ。このキャスティングについても毀誉褒貶ありましたが、完成した映画から伝わる彼女の熱演ぶりをみると、これは成功と言わねばならないでしょう。マドンナは現代ポピュラーシンガー、しかも大スターにしては、よく映画に出演しますよね。日本では彼女の主演映画が当たったためしがないので心配してましたが、今回の映画はマスコミの受けもいいし、劇場は立ち見も出る大盛況。今後は『エビータ』が、女優マドンナの代表作になることでしょう。

 マドンナに影のように付き添い、物語の語り手となるチェ・ゲバラ役のアントニオ・バンデラスが歌うところは初めて見ましたが、なかなか堂に入った歌いっぷり。本職のマドンナとデュエットして歌い負けないのは大したものです。映画の冒頭は彼の歌から入るのですが、ここでスンナリ観客が物語に入っていけないと、映画は大失敗。バンデラスはこの大任を見事に果たしました。

 ただしバンデラスの役は、本来もっと大きくならなければならない。劇中のエビータがゲバラの視線で描かれることで、この物語は主人公エビータの内面に踏み込んでゆくことを避けている。舞台の上で演じられる芝居なら、ゲバラの存在が異化効果を起こして、舞台と観客の間にある種のフィルターを作り出すのですが、映画ではそのあたりがあまりうまく行っていないかもしれない。バンデラスは背景に溶け込んでしまい、単なる傍観者のひとりになってしまっている。

 ティム・ライスとアンドリュー・ロイド・ウェーバーの格調高い音楽、全編を貫くアンバー調の色彩設計、アルゼンチンとハンガリーでロケした奥行きのある風景、マドンナの深みのある歌唱力と芝居、バンデラスの意外な熱唱、ジョナサン・プライスの好サポートなどを、ベテラン監督アラン・パーカーがしっかりとまとめ上げた大作映画。映画としての完成度は高いし、この時代にこれだけの大作ミュージカル映画が作られ、それがヒットしているというのは奇跡に近い。これがきっかけになって、ロイド・ウェーバーの他の作品の映画化にも弾みがつけば面白いんですが……。

 ただ難を言えば、僕はこの映画が1996年に作られることの意義がよくわからなかった。なぜ今ごろ『エビータ』なんだろう。この映画は作られた瞬間に、もう古いんだよね。新しさを何も感じないんだよ。70年代の大作ミュージカルをなぞっているだけだもんね。


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