俺たちは天使だ

1997/01/26 シネマ・カリテ2
フランス映画と香港映画を混ぜたら傑作喜劇映画になった。
やる気のない邦題がもったいないぞ。by K. Hattori


 ジェラール・ドパルデュー主演のコメディ映画で、予告編では『マスク』みたいなCGを見せてた。僕は正直言って、あまり食指が動かなかった映画。それがなぜ今回この映画を観る気になったか。魔が差したのだ……。直前に観た映画が今ひとつ煮え切らず、欲求不満になった僕は、半ば自暴自棄になって「思い切り馬鹿な映画を観よう」と心に決めた。こういう衝動はよくあることだが、普段なら直前になって踏みとどまるものだ。だがこの時は違った。「もうどうにでもなれ」という、破れかぶれの気持ちだった。しか〜し、そこからこういう思いもかけないケッサクに出会ったりするから、映画館通いは止められない。こちらの準備ができていない無防備なところで、カウンター気味に一発食らった気分だ。

 主人公たちにしか見えない天使が登場する話だというから、どうせハートウォーミングで甘ったるくて子供だましの映画かと思っていたんです。ところが映画はオープニングから舞台が香港。中国人マフィアに狙われた男の必死の逃亡ぶりを、アクションてんこ盛りで描いたと思ったら、カメラは急にパリに移動して、舞台の上で半裸の女性たちが群をなすナイトクラブ。赤い照明に照らされた女性のおっぱいがズラズラ並ぶのを見て、どうやらこれは「お子様向き」ではないらしいと悟った。

 ショー場面にはクレイジーホースのメンバーが出演しているそうで、粒ぞろいの美女たちが居並ぶ様子は壮観。芸も一流の本物です。ちょっとHな演出で見せる、洗練された極上のエンターテイメント。これだけで、この映画を観る価値があるぞ。客席は小ぶりだけど、小道具や照明など、ディテールに目が行き届いていて、まるで本物のナイトクラブみたいでした。最後に中国マフィアが店を壊してしまったときは、これでもうショーの場面が登場しないことに、ちょっとガッカリしたほど。

 映画は全編がギャグの連続。僕は客が10人に満たない客席の前から3列目で、思い切り笑い転げてました。序盤と終盤に用意されている、香港アクション映画風の場面も楽しい。テンポもアクションもまるっきり香港映画で、たぶん殺陣や演出も香港の映画人の手によるものでしょう。派手な銃撃戦があり、露天や建物をぶち壊しながらの追っかけあり、モーターボートを使った追跡劇では1隻を大爆発させるサービスぶり。舞台がパリに移っても、自動車を玉突き衝突させたり、自動車2台と家を1件焼いてしまったりで、結構金をかけている。

 主人公たちの守護天使が物語を引っ掻き回す話なのに、天使たちが登場するのは物語もなかばに入ってから。こうした構成上のアンバランスさも、この映画の贅沢さゆえ。前半からギャグが満載だから、天使の登場が押してきたって感じなんですね。

 とにかくいろんな意味で、最高におかしい映画です。観ている間中、次の瞬間に何が飛び出すかわからない楽しみがある。洗練された馬鹿馬鹿しさのなかに、野蛮で危険な魅力がある。ハッピーエンドも気に入った。


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