カンザス・シティ

1997/01/19 恵比寿ガーデンシネマ
ロバート・アルトマン監督が撮った1934年のカンザス・シティ。
ナイトクラブでの演奏場面はジャズファン必見! by K. Hattori



 不況に喘ぐアメリカで、ひとり華やかな夜を謳歌する1934年のカンザス・シティ。黒人ギャング、セルダム・シーンが経営するナイトクラブでは、アメリカを代表する黒人ジャズミュージシャンたちが、日毎夜毎に超一流のジャムセッションを繰り広げている。怪人セルダムを演じているのは、トラボルタと共演した『ジャンクション』での印象も記憶に新しいハリー・ベラフォンテ。お馴染みのカサカサした特徴的な声が、不気味で冷酷なセルダムという男にぴったり。彼の薄情なユーモアセンスにはちょっと驚きますが、映画の中で終始最も強い存在感を誇示しているのはこの人でしょう。

 セルダムに捕らえられた白人の男、ジョニー・オハラに扮していたのは、『コピーキャット』や『リビング・イン・オブリビオン/悪夢の撮影日誌』のダーモット・マルロニー。捕らえられたジョニーを何とか取り戻そうとする妻、ブロンディ・オハラを演じるのは、最近売れっ子の女優ジェニファー・ジェイソン・リーです。この映画では終始唇を尖がらせ、口を歪めながら台詞をしゃべり、眉を吊り上げ、イライラとささくれ立った表情で通します。彼女が家に戻ったジョニーを抱きしめる場面で、それまでのとげとげしい表情からじつに優しい表情になる。凄惨で哀れなシーンですが、そこが見ものです。

 ブロンディは交渉材料として、ミランダ・リチャードソン演じる地元政治家の妻キャロリン・スティルトンを誘拐し、政治的な圧力で夫を開放させようとします。リチャードソンは『クライング・ゲーム』の美しくも冷酷なテロリストがはまり役でしたが、この映画ではアヘンチンキ中毒の気弱そうな女を演じていて、意外といえば意外。ところがどっこい、最後の最後に大逆転があって「やっぱり……」ということになるのが楽しいぞ。

 この映画は音楽シーンが命。誘拐劇と平行してナイトクラブでのジャズ演奏が頻繁に挿入され、この映画のもうひとつの主題になっています。物語と演奏シーンは互いに共鳴しながら、もつれ合い、からまり合ってエンディングへと向かう。映画序盤の肩馴らしのような演奏から、徐々に熱気を帯びた演奏になり、最後は静かに幕を閉じるあたりなど、台詞のない音楽場面だけで、ひとつの物語になっているような見事な構成でした。

 クルト・ワイルやディズニー映画の音楽を現代一流ミュージシャンにカバーさせた音楽プロデューサーのハル・ウィルナーが、30年代のジャズシーン見事に再現。現代のジャズミュージシャンたちが、レスター・ヤング、コールマン・ホーキンス、ビル・ベイシーになりきって、再現や演技を超えた壮絶なジャズバトルを展開します。ジャズが好きな人は、むしろ物語そっちのけで、演奏シーンだけを楽しみたいことでしょう。

 監督のロバート・アルトマンは、この映画の演奏シーンだけを編集して1時間ほどの映画を作ったそうです。ちょっとヘヴィーな映画をもう一度観るには体力がいりそうだけど、音楽場面は何度でも観たい気分です。


ホームページ
ホームページへ