デッドゾーン

1997/01/02 シネマ・カリテ1
デビッド・クローネンバーグの83年作品をリバイバル公開。
S・キングの映画化作品では最高傑作。by K. Hattori



 新作『クラッシュ』公開を記念して開催されている、「クローネンバーグ・コレクション」。今回の特集では83年の『デッドゾーン』、82年の『ヴィデオドローム』、80年の『スキャナーズ』が上映プログラムなのだが、公開順と製作年度が逆転しているのはなぜなんだろう。一般受けしそうなものから上映していると言うわけでもなさそうだし……。

 『デッドゾーン』はクローネンバーグの映画の中では好きな方で、日本初公開の東京ファンタスティック映画祭で観たのを皮切りに、これで3度目の鑑賞。スティーブン・キングの長大な原作をコンパクトにまとめ、主人公の悲恋物語に仕上げるあたりはうまいもんです。

 交通事故に遭った主人公が5年間の昏睡からさめると、恋人は別の男の妻になっていた。彼女にとって長い年月であったとしても、自分にとってはほんの昨日の出来事。彼は恋人を諦めなければと思うが、感情的には諦めきれないでいる。この葛藤が物語の縦糸になり、そこに予知能力が横糸として織り込まれてゆく構成です。クリストファー・ウォーケンの冷え冷えとした表情が、物語の荒涼とした雰囲気を増幅させてます。ある程度長い年月に渡る物語なんだけど、出てくるのは晩秋から冬にかけての風景ばかり。この凍てついた風景は、そのまま主人公の心象風景でしょう。

 この映画を最初に観た時には、もう泣けて泣けてしょうがなかったんですけど、二度目三度目になるとそうでもないです。泣かせ所が決まっていて、それが結構ステレオタイプだったりするんだよね。ステレオタイプと言えば、悪役もステレオタイプなんだけどさ。この映画は片想いの恋の物語だから、そういう気持ちに共感できる状態の人は、主人公の気持ちと自分の気持ちがシンクロしてしまうんじゃないかな。僕も最初にこの映画を観た時はそうだったもんね。

 何度観ても、オープニングタイトルが素晴らしい。すすり泣くようなストリングスの調べに合わせて、風景が少しずつ黒く塗りつぶされてゆく。これが主人公の行く末を最初から暗示してます。映画の最後で主人公が「さよなら」とつぶやくと、彼女が「愛してるわ」と答える。この時のウォーケンの表情が素晴らしいんだよなぁ。

 この映画はクローネンバーグが『ヴィデオドローム』の直後に肩の力を抜いて作った作品で、彼特有のグロテスクな描写も影を潜めてます。脚本が他人のものだということもあって、全体の構成やバランスもいいし、演出にも余裕が感じられます。それが映画の透明な雰囲気を生み出しているのでしょう。彼の映画の中では、一番一般向けする作品で、カップルでも観られそうです。

 代々木アニメーション学院・SFX特撮科の協賛企画ということで、映画の前に簡単なコマーシャルフィルムが上映されるのですが、これが悪趣味の極み。センスゼロ。映画館ロビーのポスターやオブジェも趣味が悪いんだけど、映画のためには我慢しよう。


ホームページ
ホームページへ