D.N.A.

1996/11/03 丸の内ルーブル
ヴァル・キルマー主演とは大嘘の「モロー博士の島」3度目の映画化。
個人的にはフェアルザ・バークの登場がうれしい。by K. Hattori



 この映画の見どころは、カイル・クーパーの演出したオープニングタイトルと、スタン・ウィンストンの作ったクリーチャーの多彩な造形につきる。原作は『タイム・アフター・タイム』で切り裂きジャックを追い掛け回していたこともある文明批評家、H.G.ウェルズの「モロー博士の島」。今回で3度目の映画化だそうです。物語は古典的なマッドサイエンティスト物の姿を借りて、人間の中にある傲慢さや狂気や獣性を炙り出す趣向になっているようだが、ドラマはウィンストンの牛耳るぬいぐるみショーの奇怪な存在感に負けてしまった。

 タイトルにもなっている島の主、モロー博士を演じるのはマーロン・ブランド。その助手がヴァル・キルマー。飛行機の墜落事故で漂流中に救出され、この島にたどり着いた国連職員にデビッド・シューリスがそれぞれ扮している。宣伝ではヴァル・キルマーが主役みたいな感じでしたが、実際の主人公はシューリスで、キルマーは頭のおかしなブランドの地位乗っ取りを画策する、さらに頭のおかしい助手に過ぎません。僕はこの人がウサギの首をコキッとやった瞬間から、この映画の先行きを危ぶみました。シューリスは『ドラゴン・ハート』などにも出演している、それなりにキャリアのある俳優らしいのですが、相手が怪物マーロン・ブランドと傍若無人なヴァル・キルマー、『ジュラシック・パーク』のスタン・ウィンストンとあっては、受けて立つのが容易じゃないことが想像できそうなものです。

 登場人物(?)の中では、博士の創造した獣人の中でもひときわ人間らしく見えるアイッサが、自分の運命とダグラスへの愛情との間で揺れ動く女の子らしさを演じて哀れを誘います。このアイッサに扮していた女優は、『ガス・フード・ロジング』や『デンバーに死すとき』で印象に残る芝居をしていた、フェアルザ・バークではないか! これは意外な拾い物をした気分。密かに彼女に注目している僕としては、しかし、彼女の役柄が「シングルマザーに育てられた気立てのいい少女」から「客にぶん殴られて目の周りにアザを作っている娼婦」を経て、ついに人間と獣の中間にまで至ってしまった事に胸を痛めざるを得ません。がんばってくれい。

 行動が無茶苦茶で、最初から気狂いとしか思えないヴァル・キルマーはともかくとして、マーロン・ブランドの奇怪さは特筆物です。僕は彼が自動車に御簾かけて登場したとき、「こ、これは『地獄の黙示録』のカーツ大佐のパロディではないのか?」と思いました。ブランドは『ドン・サバティーニ』で『ゴッド・ファーザー』のセルフパロディをやっていますからね。モロー博士もジャングルの中で、自分自身の作った王国に君臨している。

 彼が「掟」を守らせるために「苦痛」という懲罰で獣民を管理している様子は、社会秩序が法で守られるのか徳で守られるのかという、人間にとって永遠のテーマの縮図でしょうね。「苦痛がなくなれば掟もなくなるのか?」という問いかけは、核心を突いた辛辣なものです。

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