暴行切り裂きジャック

1996/09/01 大井武蔵野館
若い殺人カップルを描いた和製『ナチュラル・ボーン・キラーズ』。
後半の暴走ぶりは痛快。エンディングは爽やか。by K. Hattori


 和製『ナチュラル・ボーン・キラーズ』といった雰囲気の映画。ケーキ屋に勤める若い男女が、週末になると店の配達車で若い女性を拉致し、ケーキ用のナイフで刺し殺す。下手な演説ぶつオリバー・ストーンより、僕はこの『暴行切り裂きジャック』に大いに好感を持ったぞ。

 犯人像もいい。アベック殺人鬼の片割れの女は、そもそも最初に登場した時から性格が悪いブスだった。若いというだけでちやほやされ、周囲の大人たちに対し公然と冷ややかな目を向ける勘違い女。若いってことはそれだけで財産だよなぁ。自分を過信する自由も保証されているし……。僕は最初から「こんなブス、ぶっ殺しちまえ」と思っていましたから、最後にめでたく彼女が殺されたときは、心の中で拍手喝采しましたよ。ははは。

 気の強い女と弱気な男が、車で女をひき逃げ。その夜、二人は恐怖に追い立てられながら、互いの身体をむさぼりあうような激しいセックスに溺れる。そのセックスがあまりに気持ち良かったので、女は男をそそのかして再び女を殺させ、その余韻の中でセックスすることを望む。男は女に命じられるまま、次々と女性をさらい、殺し、そのすぐ横で女とセックスする。ところが、男の方はだんだんセックスよりも殺人自体に快楽を感じるようになってしまい、女をアパートに残してひとり夜の街に出かけるようになる。それに気づいた女が男を追う。追われながらも男は凶行を重ねる。

 女が男を追うのは、男の殺人行為に恐怖を覚えたからではない。「私のいないところで、ひとりで楽しんでいるのが許せない」からだ。このぶっ飛びかた。これだけでも『ナチュラル・ボーン・キラーズ』より凄いことがおわかりいただけるだろうか。でも男はそんなこと意に介さない。彼にとって殺人はもはやセックスの快楽を高めるための前戯ではない。それ自体で完結し、男に対してこの上もない快楽をもたらす行為なのだ。

 研ぎ澄まされたナイフで女を刺し殺す。しかも下腹部にぐさりと一突き。フロイト流の解釈をすれば、ナイフは男性器の象徴だから、それで男は性的な満足を得ているということなんでしょうね。男の一突きで女は文字通り昇天してしまうんだから、これはやり始めると癖になるかもしれません。女をイカセることが、男にとって性欲の大半を占めているものなぁ。ナイフで刺された女はみんな「あの世へ」イッてしまう。男冥利に尽きるぞ。

 この映画において、殺人という行為はそれ自体が記号的な意味しか持たされていない。ナイフで女を切り刻みながら、男の服にはほとんど返り血が付かないことも、その証拠。最初は結構派手に血が出るんですけど、殺人を重ねるうちに「人殺し」の生々しさが消えて、同時に返り血の描写もなくなってくる。

 殺人を重ねるうちに、男と女の立場が逆転してくる様子は戯画的だが痛快。「私を捨てないで」とすがり付く女を突き殺した男の姿は、晴れ晴れと爽快である。見事。


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