必殺!主水死す

1996/05/13 よみうりホール(試写会)
テレビや映画で人気の『必殺!』シリーズ完結編。
核になるアイディアは悪くなかったが、お話がお粗末。by K. Hattori


 江戸城大奥を舞台に繰り広げられる女同士の壮絶な戦い。将軍家の世継ぎ問題を巡り、大奥おかかえの女武芸者集団である別式女と、同じく大奥のもめ事を闇から闇に葬る葛西衆、江戸の町で活躍する殺し屋仕事人が三つ巴の攻防を繰り広げる。主人公は仕事人の中村主水だが、幕府内の政争に仕事人が巻き込まれる理由が「葛西衆はお城の外のことには手はささない」「ならば仕事人を雇えばよい」だけでは弱いような気がする。

 物語は途中から将軍家後継問題から、主人公主水と葛西衆頭目、大道芸人の女の三者を巡る因縁話に突入。これがまた、物語をわかりづらくしてしまう。物語が請負仕事と義理人情の板挟みというレベルと、過去の因縁からの恨み辛みというレベルに分裂し、誰がどういう理由で誰を殺そうとしているのか一層の混乱を煽る。庶民の恨みをはらすのが仕事だったはずの仕事人たちが、将軍家の政治に巻き込まれたりするからこんなことになる。跡目争いもどちらかが善玉、どちらかが悪玉ならわかりやすくなろうものを、結局はどっちも悪党でしたってことになるから余計に混乱することになるのだ。

 映画としての見どころがないわけじゃなくて、林の中で別式女と仕事人たちが斬りあうとか、別式女が城内女中の着物を脱ぎ捨てると中から色とりどりの女忍者が飛び出すとか、葛西衆が仕事人たちを樽に詰めて城内から脱出させ、そのまま樽ごと串刺しにして堀に捨てるとか、それなりに楽しめないわけじゃない。映画ということでロケーションにも力が入っているし、葛西衆頭目の息子を演じた野村祐人のかっこよさも拾いものだしね。でもお話がこれじゃ、それこそお話にならないよ。クライマックスで野村演じる頭目の息子が、物語への参加を放り出してしまう気持ちがよくわかる。本当に「勝手にやってなさい」って感じなのだ。

 葛西衆頭目の津川雅彦はなかなかの貫禄で、人生の辛酸をなめつくした男の雰囲気がよく出ていた。人間の命を「城から出されたものはみんなゴミだ」と平気で言い放つが、その言葉には少しの暗さも感じられない。それがまた余計に凄惨な感じなんだね。主人公の主水と20年前にどんないきさつがあったのかは、台詞で説明されるだけで面白味も何もないけど、大詰めで見せる狂おしいまでの男の嫉妬心は、藤田まことの存在感を完全に食っていた。

 東ちずるが女仕事人の役で登場していたけど、刀を逆手の持って斬り結ぶだけじゃ仕事人としての芸がない。他の仕事人たち同様、何か職業にちなんだ道具や所作で殺しをしてほしかったなぁ。

 タイトルが『主水死す』だからやむを得まいが、あまりにも取って付けたような結末には唖然。本当に主水が死んだかどうか、それは誰にもわからない。


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