ヴァンパイア・イン・ブルックリン

1996/05/02 九段会館(試写会)
エディ・マーフィとアンジェラ・バセットが共演した吸血鬼映画。
なんとコメディじゃなくて大真面目なホラー映画。by K. Hattori


 コメディアン出身の黒人スター、エディ・マーフィが自ら企画製作した、現代ブルックリンが舞台のヴァンパイア映画。どうせ半分コメディだろうと思っていたら、結構本格的なホラー路線らしくて驚く。

 さて物語。古代エジプトから続くヴァンパイアの一族は人間に追われて世界各地に散りぢりになる。一族の一部はヨーロッパで悪名高いドラキュラのルーツとなり、もう一方は大西洋を渡ってカリブ海に根を下ろした。マーフィ演ずるカリブから来たヴァンパイアは、そんな由緒正しきヴァンパイアたちの最後の生き残り。彼は吸血鬼の血統を守るため、ブルックリンで人間として暮らすヴァンパイアと人間との間に生まれた女を探し求めることになる。

 映画は前半から中盤までが断然面白い。何しろ主人公はヴァンパイアの側だし、演じているのが伊達男エディ・マーフィだからルックスも最高。動作から何からばっちり決まってかっこいいのだ。ヴァンパイアは一種の魔物だけれど、自分のパートナーとなる女のためなら危険もいとわず、あらゆる困難を克服して女をものにしようなんて、今どき人間の男でこれだけシンプルに行動できる奴ってのはいないぞ。やり方は少々強引だけど、女に対してはひたすらジェントルな吸血鬼。どうしたって観客はヴァンパイアの側を応援してしまうんじゃないかな。

 物語はマーフィ演ずるマックスと、彼に追われるハーフ・ヴァンパイアの女刑事リタ、彼女に密かに想いを寄せる同僚の刑事ジャスティスの三角関係が軸になるんだけど、マーフィのかっこよさに比べると、リタとジャスティスの人物描写がかなり弱い。この弱さが映画の終盤で物語の足を引っ張る。本来なら観客は主人公のヴァンパイアに多分に感情移入しつつも、最後に悪であるヴァンパイアが滅ぶことに納得できなければならないはず。基本線は娯楽映画ですから、最後は悪が滅び、正義が勝たなければならないんですね。でもこの映画では正義の側があまりにもふにゃふにゃで、最後の最後まで正義対悪という構図がうまく出来上がらなかった。

 リタを演じたアンジェラ・バセットは、最近いろんな映画に引っ張りだこの黒人女性スター。『ストレンジ・デイズ』の運転手役がかっこよかったから、今回バリバリの女刑事役と聞いて期待していたんだけど……。彼女はかげりのある役をやらせるとはまるんだけど、それは反対側にある楽天性や自信に裏打ちされた強さがあってこそ、人物像に深みを与えるものであるはず。最初から最後まで暗い顔で悩まれていても、あまり魅力的とは思えないけどね。

 結局この映画はエディ・マーフィ主演のワンマンショー映画で、他の人物は添え物以下。ワンマンショーであるスター映画にはそれなりの定石や作法があるんだけど、この映画にはそれがないのが問題。


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