カットスロート・アイランド

1996/03/19 日比谷映画
ジーナ・デイビスがお転婆な小娘に見えれば全て許せたのに……。
監督のレニー・ハーリンはやっぱりアクションが下手だ。by K. Hattori


 金を湯水のように使っていることはよくわかるのだが、その割には効果が出ていない映画の典型。活劇としては登場人物の存在感が弱すぎるのが致命的だし、アクション場面の描写にはスピード感がなく、全体にぼんやりした印象しか残らない。監督レニー・ハーリンは『ダイ・ハード2』で落胆させられた後『クリフハンガー』でやや見直していたのだが、今回の映画には再び大いに失望させられた。やはりこの程度の監督だったのか。

 そもそも主人公のジーナ・デイビスがミスキャスト。彼女は無鉄砲な女海賊を演じるにしては色気がない。女海賊は「女」と「海賊」というミスマッチが魅力なのに、デイビスが演じるとミスマッチにならないんだよね。少なくとも僕は、あんな薄汚くて顔がゴツゴツした女海賊に魅力なんて感じない。この役柄はもっと他の役者がやるべきだったのさ。例えばそうねぇ……、同じような役柄だけど『バッド・ガールズ』のマデリーン・ストウあたりはどう?

 ついでに言わせてもらえれば、相手役のマシュー・モディンにも精彩がない。この役柄はもっと元気のある、溌剌とした役者が演じないとダメ。中身はインチキ医者なのに、モディンじゃ本物のインテリに見えてしまって肉体演技が辛いよな。例えばヴァル・キルマーあたりが適役だったんじゃないかな。

 アクション場面の下手さは相変わらずで、リズムもテンポもあったもんじゃない。活劇場面を見ていても、ちっとも血が沸かないし肉も踊らない。ドッカンドッカン火薬の量が多いばかりで、肉体性が希薄なんだな。汗の臭いのしない格闘場面が、次から次にするする流れて行くばかり。カメラのパンがもたもたしていて切れがない、クローズアップと遠景カットのメリハリが利いていない、本来フィックスして見せなければならない場所でカメラが動き、不必要に多用されるスローモーションはアクションのテンポを極端に落とすばかりだ。

 クライマックスの海戦場面で船から船に乗り移るシーンで、僕はS・スピルバーグという監督を見直しました。彼の撮った『フック』というほとんど最低の映画がありますが、あの映画には同じような海戦場面が登場します。『フック』の中で唯一面白かったのはあの海賊船の場面ですから、今回の『カットスロート・アイランド』では裏切られた気分。

 この手の映画では敵役が本当に憎たらしくないと、映画の気分が出ないもの。似たような映画としては、SF風海賊映画『ウォーターワールド』が敵役にデニス・ホッパーを持ってきていたのがすぐ思い出される。引き替えこの映画は、悪党の哲学や美学が中途半端で気にくわない。なかでも知事の悪党ぶりがほとんど描かれていないから、最後に配下の男が裏切る過程が納得できないのである。あ〜あ。


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