スキャンティドール
脱ぎたての香り

1996/03/16 大井武蔵野館
江戸時代から続く下着屋の跡取り娘が恋する相手は中年の下着泥棒。
周防正行の脚本家としてのデビュー作。by K. Hattori


 1984年のにっかつ映画。周防正行の脚本家としてのデビュー作で、監督は水谷俊之。江戸時代から続く老舗下着職人の一族に生まれた娘が、自社製品のショールームを兼ねたランジェリー喫茶で出会った中年男と下着を通じて恋に落ちる物語。テーマは下着に対するフェティッシュな愛情だが、映画はロマンポルノの末裔だから気になるのは下着の中身。そのあたりのアンバランスさをひとり突き抜けてしまう、上田耕一演ずる中年男が素晴らしい。下着会社の中堅社員でありながら、下着好きが高じて妻子に捨てられ、早朝のジョギングをかねて物干しからアリとあらゆる下着を盗んで回る。画面の中に突然登場するパンティーを型どった黄色いアドバルーンは、登場人物達の下着に対する愛情のシンボルかな。

 物語の設定でひとつボタンが掛け違っていて、その食い違いをどんどん拡大させ、最後にもう一段ボタンを掛け違えさせてボタンの掛け違え自体を格好よくまとめてしまうのが周防正行のスタイルなんだろうか。『変態家族・兄貴の嫁さん』では、長男がSMにのめり込んで家出するまでで十分に面白いのに、さらに残された嫁にオナニーさせてしまうあたり。『シコふんじゃった。』では二流の相撲部が試合を進めて行く過程で、太った女が男にまぎれて土俵に上がるという展開にそうしたものを感じる。

 この物語で言えば、江戸自体から続く下着屋の娘が開くランジェリー喫茶というアイディアがすでに飛んでいて、そこからさらに下着フェチの中年男と娘が愛し合うという流れに持って行き、娘が自分とのセックスを通して中年男を更正させるのかと思いきや、さらにひとひねりして、中年男が決定的に下着への愛を自覚してしまうというオチがつく。主人公が「バカバカ」と言いながら自転車のかごから路上にパンティーをばらまいてゆくところなど、なかなか突き抜けた爽やかささえ感じさせる。

 要するに周防脚本というのは観客が期待する物語の着地点から、さらにもうひとつ先の着地点までの滑空距離が長いんですね。最新作の『Shall weダンス?』にしたって、普通なら競技会のところで物語が大団円になることが予想できそうなのに、そこで落ちつかずにさらに先まで物語が伸びて行く。こうして観客の期待をはぐらかし、裏切って行くのは、観客に対するサービス精神の現れなのか、本人の資質なのか……。たぶん後者なのでしょう。

 周防正行の世界にもうひとつ特徴的に現れるのは、明確な伏線とそれがピタリと収まる快感でしょう。ほとんどあざといほどなんですが、例えばこの映画でも下着屋主人の幻のパンティーが紛失し、早稲田大学文学部の女の子が「今日からはこれがあなたの幻のパンティーよ」と言うあたりは決まりすぎ。まぁこれも、ギャグとしては秀逸だと思いますけどね。


ホームページ
ホームページへ