ベイブ

1996/03/10 丸の内ピカデリー1
子豚が主人公のファンタジーだけど世間の残酷さもしっかり描いている。
ジム・ヘンソン死すとも工房は死なず。by K. Hattori


 豚が主人公の映画とバカにするなかれ。この映画はテンポの良いストーリー運びで、最後までぐいぐいと観る者を引きつけて離さないのだ。エピソードの固まりをひとつづつ小さく区切り、しゃれた扉をつけて進行して行くスタイルは(ぜんぜんジャンルが違うけど)『スティング』にも似ています。これでぐっと物語がコンパクトになるんだから、ひとつのアイディアだよね。過去の映画資産の中から自由自在に引用できるのも、映画作家の才能です。

 動物が人間と同じようにしゃべる。しかも芝居と口の動きと台詞がすべてシンクロするというのが、この映画最大の見せ場。動物たちは出づっぱりだから、当然見せ場は延々続きます。まず動物たちの芝居については、出演した動物たちと動物トレーナーの皆さんに大きな拍手を送りましょう。口と台詞の完全シンクロは、最新CG技術の成果でしょうね。それに忘れてならないのはジム・ヘンソン工房のアニマトロニクス技術。傑作『ダーク・クリスタル』を残して90年に亡くなったヘンソンでしたが、彼の作った技術はこうして今でも継承されているんです。なんだか嬉しい気持ちにさせてくれます。最新のデジタル技術も含めて、ものすごく手間のかかった映画だと思うんだけど、全編に手作りの良さが全編に満ちているんですね。すごく暖かい。

 ブルー系の色でまとめられたオープニングの超近代的な養豚場の描写から暖色系の農村描写への切り換えが、現実からおとぎ話への入口。美術デザインが素晴らしく、カーニバルの遊園地、藁葺きの農家の屋根や池、つつましい農夫の生活、牧場に続く機械仕掛けのゲートなど、どれもが温もりを感じさせる手作業を感じさせるデザインなのだ。全体はおとぎ話なんだけど、その物語の隙間からふと現実の辛さや厳しさがかいま見えるあたりがスパイスになっていて、物語をきりきりと引き締めている。この映画で製作と脚本を担当したのは『マッド・マックス』シリーズのジョージ・ミラー。最後の監督作『ロレンツォのオイル/命の詩』もいい映画だったんだから、そろそろ次の映画を撮ってくれないかしらねぇ。

 登場する数少ない人間の中でも、言葉少ない態度と長身で抜群の存在感を見せる老農夫ホゲット役のジェイムズ・クロムウェルですが、彼がベイブに哺乳ビンで水を与えながら突然歌い始める場面は、突然ミュージカルみたいで僕は好きでした。さぞや名のあるタレントで、若い頃はミュージカル映画の端役か何かで下積みしていた人かと思いきや、手元の資料を見る限り全然そんなことないんだよね。資料を見ていて気がついたんですが、この人はこの映画以前にも「The Babe」という映画に出ています。しかもつい最近……。それはジョン・グッドマン主演の『夢を生きた男/ザ・ベーブ』という野球映画でした。


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