暗殺者

1996/02/25 松竹セントラル1
『9か月』のジュリアン・ムーアがスタローンの相手役という大味な映画。
バンデラスのやんちゃ坊主ぶりはなかなか痛快。by K. Hattori


 ヒロインであるジュリアン・ムーアが、無邪気にハッキングを続ける可愛い女には見えないのが難点と言えば難点だが、それ以外は良くできた面白い映画だった。ムーアは『9か月』でヒュー・グラントと相手役を演じていたが、彼女のがらにはあちらの方があっていると思う。世の中には危機に陥って魅力を発するタイプの人間とそうではない人間がいて、彼女は後者に属するタイプなのだ。『9か月』でも、彼女が光っていたのは物語前半の日常描写の部分で、終盤のドタバタになるとつまらないでしょ。

 この映画の面白さはシルベスター・スタローンとアントニオ・バンデラスという、男達二人の魅力につきる。スタローンは長年続けてきた殺し屋稼業に嫌気がさし、暴力の世界から足を洗って堅気になりたい中年男を演じている。この役柄が長年アクションスターとして第一線で活躍しているスタローンという役者の姿と重なるから、他人が演ずればマンガにしかならないこの役に尋常ならざるリアリティーが生まれてくる。

 スタローン自身、過去には何度もアクション俳優から足を洗おうと悩んできたのだと思う。僕は彼の脱アクション映画『オスカー』をガラガラの東劇で観たことがあるクチですから、嫌な仕事を表面上は嫌な顔せず引き受ける主人公の姿に、ひどく同情してしまわざるを得ない。役者スタローンも自分のところにアクション映画の脚本が送られてくるたび、「いい加減にしろ!」なんてブツクサ言っているに違いない。でも、そんなスタローン自身の気持ちが投影されている(と勝手に断言していますけど)『暗殺者』という映画はやっぱりアクション映画だってのが面白い。

 一方のバンデラスは、若手アクション俳優として最近乗りに乗っている成長著しい男。『デスペラード』や『フォー・ルームズ』は僕にとって面白い映画じゃなかったけど、映画の中のバンデラスは作品1本1本のキャリアを確実に本人の地力にしている感じがして好印象を与えました。そんな彼がアクション映画の大先輩スタローンを追い落とそうとする殺し屋を演じれば、これまたキャスティングの妙でうまい具合に役と役者のイメージが重なってしまうところがこの映画のうまさなのです。

 物語は最初から底が割れているし、古いホテルが登場して階段がギシギシ鳴っていた時点で、最後の対決の場がここになることもわかってしまう。パソ通のユーザーにとっては「ねっとオカマ」も驚くような存在じゃないしね。この映画はひたすら男二人の対決を描いた映画だし、観客は物語以前に配役の妙味を味わうべく観る映画になると思う。この男達二人に比べれば、ジュリアン・ムーアの存在なんて最初からどうだっていいのです。


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