君さえいれば
金枝玉葉

1996/01/02 シネマスクエアとうきゅう
男装のアニタ・ユンにレスリー・チャンが惚れてしまってさぁ大変。
香港芸能界を舞台にしたラブコメディ。by K. Hattori


 華やかな芸能界の裏側を舞台にした、バックステージ物風のロマンチック・コメディ。この映画のすごいところは、華やかな世界を舞台にしていながら、そのじつほとんどお金をかけることなくそれを描き出しているところにあると見た。舞台になるのはレスリー・チャンとカリーナ・ラウが住む高級マンション(このセットは見事)が中心で、この他にアニタ・ユンのアパート、オーディション会場、録音スタジオ、エレベーターが登場するだけ。登場人物も中心になるのは上記3人で、これにアニタ・ユンの幼なじみ、レスリー・チャンの参謀である中年のホモがからむ程度。これだけ空間を限定してしまうと、とかくせま苦しい舞台劇風の雰囲気になりそうなものだが、登場人物の造形と出し入れ、場面転換のうまさで世界の広がりを感じさせる。

 香港映画というと、脚本もなしにドタバタと短時間で撮影がすすめられて行くという一種の常識があって、良く言えば物語の流れを重視した豪快な筋運び、悪く言えば無茶苦茶で出鱈目なストーリーには定評がある。ところがこの映画はけっこう物語が緻密にできていて伏線は効いているし、人物の設定や造形、心情の移り変わりなどもじつに丁寧に描かれているのだ。香港映画と言うより、むしろハリウッドの小品という風情がある。香港映画が苦手な人にも、取っつきやすい映画かもしれません。

 典型的な三角関係のドラマだけれど、レスリー・チャンとカリーナ・ラウのエピソードがじつにしっかりと描かれている割には、レスリー・チャンがアニタ・ユンに惹かれて行く過程が弱いような気がする。この必然性はもっぱらアニタ・ユンという女優のキャラクターが引っ張っている部分が大きくて、エピソードのひとつひとつには切れ味がない。というより、主役3人の中ではアニタ・ユンのエピソードと人物造形が、やはり一番薄いのだ。これは脚本に書き込まれていないからそうなっているのか、他の二人に比べてアニタ・ユンの演技力が劣っているのか、その辺は微妙。ただ、このウィンという少女の人柄が嫌らしく見えないのは、やはりアニタ・ユンの功績で、これを他の女優がやったら鼻持ちならない奴になっていた可能性は充分に考えられる。

 笑いのツボというのには国民性や民族性があるようで、ハリウッド映画を見慣れている日本人には、香港映画の笑いがよく飲み込めないところも多々ある。それでもトイレの会話を取り違えるギャグや、エレベーターの中で突如取り出される蛍光スティック、「もう走れない、自転車が必要だ!」などの各シーンには大いに笑わせてもらいました。

 この規模の映画なら日本でも難なく作れるはずなのに、それをやろうとしない日本映画界は不幸です。


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