座頭市兇状旅

1996/01/02 文芸坐2
真っ暗な木立の中で取り囲んだ数人のやくざを一瞬に斬り捨てる座頭市。
ラストの大掛かりな殺陣はやや大味で残念。by K. Hattori


 同時に観た『あばれ凧』が色鮮やかなプリントだったのに比べると、この映画のプリントは無惨でした。全編に古いプリント特有の雨垂れが走り、所々でシーンがつながらなくなるほどの欠損がある。ま、それでも大画面の迫力ってものは健在ですけどね。どんなプリントであろうと、ビデオで見るよりは映画で観た方がいい。

 座頭市の泊まった旅篭の主人は地元を縄張りとする元やくざの親分だった男。大きな喧嘩出入りに負けた後は縄張りをすっかり奪われ、堅気になることと引き替えに辛うじて地元で暮らすことを許されている。彼は幼い頃に引き取った年頃の娘を人一倍可愛がっている。娘は父親の縄張りを奪ったやくざの二代目と恋仲になっているのだが、父親が昔の夢を捨て切れていないことも知っている。父親にとって恋人は敵である。二人の中で悩む娘は、いっそのこと皆がやくざからすっぱりと足を洗ってくれればいいのにと思っている。一方近隣のやくざ達とつるみ、若い二代目に難癖を付けて元の縄張りを取り戻したいと願う年寄りの望みは、同じように縄張りを狙うやくざたちの思うつぼでもあるのだ。一色触発のこの場所に、座頭市がからんできて話はおかしな方向に流れて行く。

 話がもっとシンプルにできそうなのに、おそらく前作から引き継いできたと思われる何人かの登場人物達が物語を複雑にしている。やくざ同士の抗争に市をからませているのか、市を巡る血生臭いやり取りにやくざの抗争がからんでいるのかよくわからない。どちらがメインになることもなく、今その場その場で行われている乱闘が、どこで誰がどんな目的から起こしたものなのか、時々わからなくなる。

 市と互いに心を通わせる女と、彼女の情夫である凄腕の浪人との関係も少し説明不足。女が現在の境遇に至る過程をすっ飛ばし、あれからいろいろありまして……みたいな説明だけでは、心優しき座頭市は納得しても観客が納得しまい。市と戦い敗れた浪人が、じつはあの女は……と種明かしをしたところで、そこまでに全く伏線がないからとってつけたような印象しか残らない。このあたりがもう少し描けていれば、映画は男と女のそれぞれの欲望がからまりあう凄みのある物語になったかもしれない。そうなれば、ただひたすら穏やかな生活を望む旅篭の娘の心情が、一服の清涼剤として生きたんだけどな。

 ラストの立ち回りは、だだっ広い原っぱで数十人の敵を相手に座頭市が斬りまくる大味なもの。三船三十郎を思わせる浪人との斬りあいも、いささか薄味。これよりは、祭りの夜に二代目を待ち伏せするやくざたちを、木立の中で数人斬って捨てる場面の方が見応えがあった。何にせよ、座頭市は強い。


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