あなたが寝てる間に…

1995/12/08 日劇プラザ
万年失恋男ビル・プルマンがサンドラ・ブロックと恋に落ちる。
ピーター・ギャラガーは寝っぱなし。by K. Hattori



 偏差値52。平均点は軽々とクリアしているし、特に文句の付けどころもないのだけれど、かといって目を見張るほど優れた部分もない映画。脚本はよくできていると思うし、演出の切れ味もシャープなんだけど、どうも薄味なんだな。華やかさに欠けるというか、もう少しコクが欲しいというか、とにかく傑作と形容するには物足りない映画だった。

 主演のサンドラ・ブロックも、ビル・プルマンも、ピーター・ギャラガーも、これ以上ないというぐらい役にはまっている。例えばブロックの役がもしジュリア・ロバーツだったとしたら、あの孤独な女の子の雰囲気は出なかったよね。ビル・プルマンはいままでさんざんいろんな映画で振られ続けていた人だけに、この映画でも最後の最後まで「もしや」と思わせる。話の展開上、どうせ最後はルーシーとジャックが結ばれるに決まっていると普通の観客なら察するのだろうが、プルマンのフィルモグラフィーを少しでも知っている観客なら、そんなことお構いなしに最後の最後までやきもきできるのです。

 物語は序盤でもっとルーシーの孤独さをたっぷりと見せてほしかった。幼い頃に母親を失い、数年前からは父親とも離ればなれになり、今は父も亡くして天涯孤独の身になっているルーシー。彼女が休暇も取らずに働いているのは、何も職場が好きだからじゃない。彼女は他にすることがないんです。そんな彼女のたったひとつの楽しみが、毎朝駅で見かけるハンサムな男の姿をながめること。彼女はぼんやりと、彼との結婚を夢想してみたりもする。でもそれはあくまでも現実逃避のための夢でしかない。

 駅での事故がきっかけになって、ルーシーはハンサムな青年ピーターの家族と知り合いになる。ここで怪訝なのは、なぜ彼女が最初からきっぱりと自分の立場を説明しておかなかったのかということなんだ。物語が進んで行くにつれ、なるほど彼女は自分の孤独から抜け出すためにピーターの家族が必要だったのだということが理解できるのだが、これは最初の段階でそれとわかる演出が必要。この導入部のもたつきが、この映画の唯一の欠点だ。

 この映画が薄味になっている原因として、終盤の盛り上がりに欠けることも指摘できるだろう。昏睡状態だったピーターが目覚め、彼の恋人も帰国して病院に乗り込んでくる。普通の映画なら子の部分をクライマックスにして、あとは物語が大団円に向かうのだが、この映画はこの第一の山場を越えて、さらなる高みを目指して突っ走る。中盤まではゆったりしたペースの取り違えのコメディだったのが、ここに来てがぜんスピード感を増してくるのです。

 物語の決着がどう付くかということより、このあたりの展開がこの映画の一番面白いところでした。ラストシーンも、それなりに泣けるけどね。


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