GHOST IN THE SHELL
攻殻機動隊

1995/12/07 東劇
『うる星やつら』『パトレイバー』の押井守が人気コミックを映画化。
道具立てやテーマがディックっぽくていいぞ。by K. Hattori



 本当か嘘かは知らないが、制作費が6億円だそうだ。その制作費をパンフレットで回収することはできないんだから、あの千円という値段は人を馬鹿にしている。僕は松竹シネクラブのチケットで入場したのでパンフは無料で入手しましたが、お金を払った方はごくろうさまでした。あんな大判にする必要もないから、もっとリーズナブルな値段にするべきだろうな。ま、買うのはマニアだからいいのか……。

 全編に濃厚に漂う『ブレードランナー』からの影響。82年に製作された『ブレードランナー』は、内容そのものよりその美術セットのデザインが後の近未来アクション映画に影響を与えている。原作はいわずと知れたP・K・ディックの傑作「アンドロイドは電気羊の夢を見るか?」だが、映画化された時点でこの原作が持つ「人間とは何か」というテーマは消えてしまった。この『GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊』は美術デザインに『ブレードランナー』の影響が見られるだけではなく、描かれているテーマそのものが「人間とは何か」「機械に魂は宿るか」というもの。これは『ブレードランナー』の影響を受けながら、オリジナル以上にディックの原作に近い場所まで踏み込んでいる映画なのだ。

 虚構の家族や子供の記憶を植え付けられた清掃作業員の苦悩なんて、そのままディックの原作っぽいじゃないの。光学迷彩の技術も、ディックの「暗闇のスキャナー」に登場したスクランブルスーツと同じようなものでしょうか。ディック万歳!

 この映画の主役は草薙素子をはじめとする9課の連中と人形使いと呼ばれる天才ハッカーなんだけど、もうひとつの主役は猛烈な密度で描写されているコンピュータ社会の未来。人間と機械とのインターフェイスがキーボードやスクリーンというものを踏み越え、人間とコンピュータを直接プラグでつなぐという描写はウィリアム・ギブソン原作の『JM』にも出てきたけど、この映画の方が徹底していて面白い。結局、いずれはこれに近いところまで行っちゃうのかなぁ。

 『ブレードランナー』以外にも、いろんな映画からの影響があることがわかる。例えば義体の視線を通してみた風景は『ロボコップ』からの引用だし、最後の落ちは『バーチャル・ウォーズ』になっている。でも、映画全体としてはまるっきりのオリジナルで、最初から最後までスリリングにスピーディーに最高の面白さを味わうことができました。脚本と監督が『パトレイバー』のコンビだから、例によって緻密な考証と台詞回しが画面の密度以上に迫ってくる。最後はまたまた聖書からの引用か。『パトレイバー2』ではキリストの台詞だったけど、今回はパウロの台詞だな。最後の最後まで、少佐こと草薙素子の表情が切ない映画でした。僕は好きです。


ホームページ
ホームページへ