復讐浄瑠璃坂
(二部作)

1995/12/03 大井武蔵野館
歴史に残る浄瑠璃坂の仇討ち事件を前後編で映画化した大作。
嵐寛と伝次郎が敵味方に分かれて激突。by K. Hattori



 『第一部・鬼伏峠の襲撃』『第二部・暁の決闘』からなる長編時代劇。赤穂浪士の討ち入りからさかのぼること30年前、宇都宮藩に端を発した身内同士のいさかいが、血で血を洗う仇討ち闘争になる様子を精密に描いている。浄瑠璃坂の仇討ち事件は当時の大事件で、後に赤穂浪人たちが火事装束に身を包んで討ち入りをするのはこの事件を参考にしてのことだそうな。

 主演の嵐寛寿郎は奥平内蔵丞の義弟、仇討ち側の頭目である奥平源八郎の叔父にあたる剣客、平野左門を演じている。この日は寛寿郎のあたりやく「むっつり右門」を観た直後だったので、かたや右門、かたや左門という取り合わせにはこのプログラムを企画した劇場側のセンスを感じた。

 昨年話題になった市川崑の『四十七人の刺客』という映画があったが、あの映画には『十三人の刺客』という映画があり、それにもこの映画の主演であるアラカンが出演していた。『四十七人の刺客』は赤穂浪士の吉良邸討ち入りを、情報戦、謀略戦という切り口から描いた作品だったが、じつはこの『復讐浄瑠璃坂』がそのオリジナルではないのだろうか。互いにスパイを送り込んで情報収集に当たるとか、諏訪に逃げ込んだ隼人一味を追い出すため城下に源八郎一味襲撃の噂を流すとか、『四十七人の刺客』でも観たことのあるような描写が多い。

 そして何よりも、源八郎一味を指揮する嵐寛寿郎と、隼人一味を守るために思慮を巡らせる大河内伝次郎との関係が、そのまま『四十七人の』刺客の高倉健と中井貴一の関係にオーバーラップするのだ。『四十七人の刺客』には高倉と中井が屋形船で対峙する緊迫したシーンがあったが、この映画でも夜鳴きソバの屋台でアラカンと伝次郎が酒を酌み交わすシーンが用意されている。こうなると、ふたつの映画はほとんどコピーである。

 『四十七人の刺客』は水気のない果物のような味気ない映画だったが、『復讐浄瑠璃坂』はみずみずしい魅力と活力にあふれる傑作だ。第一部のラストに用意されている乱闘シーンは、鬼伏峠で隼人の弟主馬を襲うアラカン一行の様子と、隠れ家に潜む源八郎たちを隼人が放った刺客たちが襲うシーンをオーバーラップさせ、しかも乱闘シーンに男たちを追いかける女たちをからませるというサービスぶり。屋外と屋内。襲う側と襲われる側。様々な立場から人物を追う映像を巧みにモンタージュさせる妙技で、この一連の場面はこの映画の中でも一番面白いシーンになっている。

 この場面に比べると最後の討ち入りシーンは単調だが、ここに寛寿郎と伝次郎の一騎打ちを持ってくるのは定石通り。最後までふたりの戦いを心ゆくまで楽しんで、僕は劇場を後にしました。満足満足。


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