黙秘

1995/11/18 ニュー東宝シネマ1
『ミザリー』と同じS・キング原作ものをキャシー・ベイツが熱演。
女の復讐と母娘の和解をドラマチックに描く。by K. Hattori



 キャシー・ベイツという女優はかなりキャリアのある人らしいのですが、この人の出世作がスティーブン・キング原作の映画『ミザリー』であることは万人が認めることでしょう。ベイツは頭のおかしな元看護婦を演じたこの映画で、世界中の映画ファンを震え上がらせました。その後『フライド・グリーン・トマト』などの作品に恵まれて一躍中堅の女優の仲間入りした彼女が、またまたキング原作の映画で濃厚な芝居を見せてくれました。

 キングの原作は映画化作品の成功例が極めて少ないのですが、今年はどういうわけかキング原作映画の当たり年。ティム・ロビンスとモーガン・フリーマン主演の映画『ショーシャンクの空に』もよくできていましたが、この『黙秘』はそれ以上にお芝居の醍醐味を味合わせてくれる映画に仕上がっています。原作はキングの「ドロレス・クレイボーン」。主演のベイツは主人公であるドロレスを演じています。娘役のジェニファー・ジェイソン・リーは『未来は今』に引き続き、野心的な新聞記者役。こうした役柄の連続性も、映画ファンにはたまりません。

 現在と過去のエピソードが縦横に絡み合った物語ですが、現在から過去、過去から未来への切り替えをシームレスに行う脚本と演出は舞台劇のような雰囲気です。たぶんこの映画の脚本は、少し手を加えるだけでそのまま舞台劇の脚本として通用することでしょう。登場人物もそんなに多くないし、物語の中心になる場所も限られている。中でも日蝕の日に起こるクライマックスなどは、舞台劇に最適ではないでしょうか。キャシー・ベイツ主演の舞台版「ドロレス・クレイボーン」も観てみたい気がします。

 完全に女性中心の物語展開で、登場する男性は既に死んでいるドロレスの夫と、ドロレスを夫殺しの犯人として付け狙う老警部のみ。物語は母と娘の確執と葛藤を軸に進み、それぞれの辛い過去を解きほぐしながら最終的な和解までを描きます。映画は冒頭の殺人場面(?)から高い緊張感を維持し、張りつめたようなクライマックスまで観客をぐいぐいと引きつけて行く。妻に対する夫の暴力や、子供に対する性的虐待など、シリアスなエピソードの連続ですが、そこはキング原作のエンターテイメント。ただの愚痴合戦には終わらせません。追いつめられた女には、女なりの戦い方があるのです。

 ドロレスが自らの地位や名誉や尊厳の全てをなげうって守ろうとしたもの。彼女は最後に娘の理解を得てその報いを授かりますが、世の中にはそれを得ることなく死んで行く女も多いのでしょう。彼女たちは世間の「悪女」という蔑みの言葉を誇りとして、強く生きて行くしかないのです。

 どうでもいいけど、「事故は不幸な女の最高の友達よ」という台詞は、男にとって怖すぎます。


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