トラブルシューター

1995/07/20 中野武蔵野ホール
『KAMIKAZE TAXI』の原田眞人が監督したハードボイルド。
的場浩司もいいけど脇役の森本レオもいい。by K. Hattori



 的場浩司は本来スターになるべきタレントである。芝居はそこそこ上手いし、熱心だし、なにより存在感がずば抜けている。しかし的場を主演に据えて、彼の男っぽい魅力を生かせるだけの企画と、それを受け入れる下地が今の邦画界にはない。それが的場の不幸だと思う。彼はビデオ映画「代紋(エンブレム)TAKE2」あたりのチマチマした画面より、映画のスクリーンこそが似合う役者である。凡百の若手タレントが束になってかかってもかなわない魅力が的場浩司にはあると思うが、いかに。『きけ、わだつみの声』にしたところで、織田風間より的場の方がはるかに輝いて見えたのは、僕の欲目か贔屓目か。

 そんな的場を主演にして、正面から100%彼の魅力を引き出しているのが、この『トラブルシューター』という映画だ。監督の原田眞人は、前作『KAMIKAZE TAXI』でも僕を楽しませてくれた人。今回の映画は前作で味わった脱線の楽しみを与えてはくれなかったが、それでもシャープでテンポのよい物語は僕を酔わせるに充分だった。

 物語の舞台は暴力団新法施行前後の1991年。的場演じる元刑事と、彼の叔父に当たる森本レオがコンビを組んで、よろずモメゴト引受屋〈トラブルシューター〉の看板を上げる。彼のもとに持ち込まれたのは、侠客の末裔であるヤクザの親分からの依頼。外国人の出稼ぎ女性を連続してレイプする男を捜索することだった。やがてこの事件が、的場たちトラブルシューターを袋小路に追い込んで行く。

 登場人物たちの誰もが魅力たっぷりで、それがこの作品の財産になっている。物語そのものより、キャラクターの造形で見せる映画だと思う。これは前作『KAMIKAZE TAXI』でも同じことが言えるから、この監督の資質なのかもしれない。これは貴重なことだ。物語を見せるのは優れた脚本があれば事足りるが、人物を生々しく魅力的に見せるというのは演出の才能だと思うからね。この映画では、悪役さえもがチャーミングである。面構えから立ち居振る舞いまで、どこをとっても演出する人間のセンスを感じるのだ。

 的場浩司の骨太で男っぽい魅力が充分生かされた映画だが、難を言えばこの南郷というキャラクターはちょっと平板かもしれない。周辺人物の持つ危ういアンビバレンツな魅力に比べると、南郷は少しイイコチャンすぎる。その点では、森本レオ演じた役は面白かった。頭に受けた傷がもとで、年々記憶が曖昧になっていくというアイディアも面白いが、これから殺されるという若い男に向かって、きれいな墜落死のしかたを教授するあたりは鬼気迫る。

 なんとも歯切れの悪いエンディングではあるが、それでも中途半端な印象を受けない不思議な映画。この映画は、ぜひともシリーズ化してもらいたい。


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