ノーバディーズ・フール

1995/07/16 丸の内ピカデリー2
ブルース・ウィリスとメラニー・グリフィスがしっとりとした芝居を見せる。
ポール・ニューマン主演の大人の人情ドラマ。by K. Hattori



 特別な事件が起こるわけではないけれど、最初から最後まで観る者をぐいぐい惹きつけて離さない映画。ニューヨーク州の小さな田舎町で起こる、クリスマスの物語だ。こういう映画を真夏に観るというのも、結構オツなものである。

 町全体が家族のように親密な様子が、じつによく描かれている。道行く人々はみんな昔からの知り合いで、互いの家族や生い立ちをみんなが共有しているような小さな町。そこで生活する人々の小さな喜びや悲しみを、舐めるようにくみ取って行く作家の目は素晴らしい。また、それを実際に肉体を使って演じてみせるポール・ニューマンやジェシカ・タンディのような役者たちも素敵だった。映画の中の人物たちなのに、そこにその人物がいるという実感がひしひしと伝わってくる。人々の呼吸する空気の匂いま感じられそうな、きめ細かな演出に酔う。

 ポール・ニューマン演じる主人公の不良老人ぶりが、いかにもかっこいい。ああ、僕もこういう歳のとりかたをしたいものだ。彼は幼い子どもを家に残したまま家庭から逃げ出した男だが、それを少しも悔いているようには見えない。この潔さ。彼が数年ぶりに息子に再会するところから物語は始まり、彼が自分の息子や孫と少しずつ和解して行く様子がメインのストーリーになるのかな。自分が自由に生きるために、家族を犠牲にした主人公だが、彼の心には幼い頃に受けた大きな傷がある。その大きな傷が、時に彼の表情をこわばらせるが、最後に彼はその過去をも受容してしまう。このエピソードが、物語の伏流。他にも、印象的なエピソードは多数。

 全編に満ちる穏やかなユーモアが、映画を心地よいものにしている。時に残酷な表情を見せる人生の断面だが、映画の印象はあくまでもゆったりと快いものだ。中でも、雪かき機の争奪を巡るエピソードが最高。犬に一服盛るシーンも傑作だった。爆笑するようなシーンはないが、映画は微笑に満ちている。

 死んでも死なない男ブルース・ウィリスが、脇役を好演。ベテランのニューマンを向こうに回して丁々発止渡り合うあたりは、さすが現役のスターである。これが他の役者では貫禄負けして、物語がここまで膨らまなかっただろう。キャスティングの妙ですね。そうそう。ウィリスの妻を演じたメラニー・グリフィスもよかった。この人、芯の強いしっかり者の女房役も上手いんだよなぁ。いつもはどちらかというと、はすっぱな役が多いんだけど、こういう清潔な役をふわりと演じられるのがグリフィスのいいところですね。この役も他の女優がやるとギスギスしちゃいそうなんだけど、グリフィスの持ち味がうまくそれを和らげている。グリフィスには健康なお色気がいつまでも似合う。事務所でニューマンにおっぱいをポロリと見せるシーンは最高でした。


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