緋牡丹博徒
花札勝負

1995/06/25 文芸坐2
藤純子主演の緋牡丹のお竜シリーズ屈指の名作。
共演は高倉健、監督は加藤泰。by K. Hattori



 大げさでくさい芝居すれすれのところで辛うじて踏みとどまっている、紙一重の傑作。嵐寛寿郎や高倉健、若山富三郎の渋い存在感が、ややもすると感情的に浮き上がりそうな芝居を引き締め、落ちついたムードを生み出している。こうした俳優陣の厚みのある芝居に、加藤泰の冴え渡った映像美学がひときわ映える。ニュープリントの目の覚めるような艶やかさも相まって、惚れ惚れとするような映画の世界に酔うことができた。

 藤純子主演のスター映画だから当時の観客は許していたのかもしれないが、今観ると許しがたいほど彼女の歌はヘタだ。映画の冒頭から藤純子自身が歌う主題歌が流れるのだが、声も音程も不安定で聴くに耐えないひどさ。この映画では最初と最後に1回ずつ歌が流れるのだが、僕は思わず苦笑した。ま、同時代でこのシリーズを観ていた人にとっては、こうした要素が逆にシリーズの特徴になっていたのかもしれないけど。それにしても……。

 名場面はいくらでもあるけれど、僕が思わずホロリと来たのは、アラカン演ずる親分が簀巻きにされた子分の遺体に向かって「ばかやろうめ」と呻くシーン。「馬鹿な子分ばかりだが、そんな奴等が俺はかわいくってしかたがねぇ」とお竜に言うアラカン。これが真の侠気というものか。僕は映画の観客に過ぎないけれど、この親分になら付いて行けるだろうと思いましたね。

 高倉健は特別出演扱いのわりには、すごくおいしい役回り。渡世の義理から何の恨みもないアラカンと斬り結ぶことになるのだが、この新旧スターの立ち回りも迫力がある見どころのひとつ。取り巻きの子分たちに「お前らは手を出すんじゃねぇ」と言うおきまり1対1の決闘を演ずるわけですが、結果が半ば予想できるとはいえ、張りつめた緊張感に思わず手に汗握ります。

 最後の殴り込みシーンは様式美の極み。ひとり敵地におもむく藤純子。「叔父貴ひとりじゃ行かせません」と傘を差し出す男。しんしんと雪が降り積もる中を、まっすぐ敵陣に乗り込むふたり。短刀に巻いた布がはらりと落ちる。ほとんど無言だが、この静かな場面の裏側には、熱い血がたぎっていることが観客にはよくわかっている。

 群がる数十人の敵をばたばたとなぎ倒す殺陣は、流れるようで一分の隙もない。片手に短刀、片手にピストル。直線的に突っ込んでくる男たちをしなやかにやり過ごし、逆手に持った短刀をひと振りふた振り。それで勝負は決まる。途中から助っ人に入る高倉健の豪快な立ち回りも迫力充分。

 セットがどれも見事だが、中でも藤純子と高倉健が出会う、川沿いの鉄道高架が印象的。ワイド画面を汽車の蒸気がゆっくりと横断するあたりは見事。


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