シリアル・ママ

1995/05/03 渋谷シネパレス
キャスリン・タナーが連続殺人主婦を体当たりで熱演。
アメリカ社会の不健康さを皮肉ったコメディ。by K. Hattori



 なんと言ってもキャスリン・タナーあってこその映画です。彼女の肉体の存在感なしに、この映画は成立しないでしょう。開始早々「これは全て実話である」みたいな字幕が入るんだけど、ホントですかねぇ。かなりマユツバなんだけど、これもギャグですかねぇ。それとも、マジ? アメリカだと何でもありそうで怖いよね。

 模範的と思われる家庭の主婦がじつはひどい癇癪持ちで、近所の住人の公衆マナーの悪さに腹を立てては次々と殺人を繰り返す。犯行の理由は、スーパーの駐車場で割り込みをした、ゴミのリサイクルに協力しない、教師がサディスティックな進路指導をする、男が女友達に不誠実な振る舞いをする、借りたビデオを返却時に巻き戻さない、車に乗るときシートベルトを締めない、休診日の医者に無理矢理診察を要求する、などなど。生活していくなかで少し頭にカチンとくる些細な出来事が、そのまま殺意に変わってしまう短絡性。それをキャスリン・タナーが演じると、すごく説得力があるんだなぁ。

 「ゆるせん!」と思った瞬間に、ブルドーザーのようにまっしぐらに殺人に向かうシリアル・ママのパワー。確信犯である彼女は、改心なんてしないのだ。ひたすら世のため人のため家族のため、そして自分のために殺人を繰り返す。真面目に作ればいくらでも真面目に作れる素材だし、怖くしようとすればいくらでも怖くできるのに、要所要所でギャグになってしまうのも、なんだかホノボノしてるなぁ。

 細かいところを言い出すと結構アラがないわけじゃないし、演出も荒っぽくてとてもうまいとは思えない。でも、全編を貫く安っぽさがある種のムードになっていて、いかにも三流タブロイド紙の猟奇殺人ネタっぽくていいんだなぁ。なにしろ息子がホラー映画マニア。いつもベティ・ペイジの写真集を持ち歩いている息子の友人は、巨乳女優の登場するビデオ(ラス・メイヤーかしら)を見ながらオナニーにふける。ミュージカル『アニー』のビデオを見ながら犬に足をなめさせている女は、「トゥモロー」を歌いながらラムチョップで頭を砕かれる。

 連続殺人犯が時代のヒーローになり、陪審員は無罪の評決。それまで母親を支持していた家族が、彼女が帰ってくることでパニックにおちいるというのもありそうな話。教会で死刑廃止のための説教をしているのも、なかなか皮肉が効いている。

 この映画を観ると、オリバー・ストーンの『ナチュラル・ボーン・キラーズ』がいかにゴテゴテ飾りたてただけの醜悪な映画かということがよくわかる。ストーンのテクニックはウォーターズとは比較にならないほど優れていると思うけど、映画の面白さとしては、この『シリアル・ママ』に数段劣ると言わざるを得ない。これは作家の姿勢の問題でしょう。



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