エコエコアザラク

1995/04/14 新宿シネパトス
主人公黒井ミサを演じた吉野公佳を菅野美穂が食ってしまった。
低予算の中にも創意が見える爽やかな映画。by K. Hattori



 少年チャンピオン連載中、少年だった僕の胸をときめかせたあの黒井ミサが映画になって帰ってきた。これを観ない手はない! ところで、あの頃の少年チャンピオンは本当にすごい雑誌でした。「エコエコアザラク」以外にも「ブラック・ジャック」があり、「ナナハン・ライダー」があり「ガキデカ」があり「マカロニほうれん荘」があり「ドカベン」があった。少年マンガ雑誌の黄金時代ですね。チャンピオンという雑誌はこのあとじりじりと面白さをなくして、今では見る影もない。少年キングが「銀河鉄道999」とともに姿を消したときは、次はチャンピオンだと覚悟しましたが、いまだに雑誌が続いているのが不思議です。

 で、映画なんですが、主人公黒井ミサのキャラクターが、原作のイメージとはちょっと違うような気がする。ま、原作も長い連載のうちに徐々に主人公のキャラクターが変化して行くわけですから、映画は原作マンガ連載初期の、悪魔的雰囲気を漂わせるミサのイメージを案外忠実になぞっていると言えなくもないかなぁ。クラスの中に根暗な魔術マニアの少年がいて、そこに本物の魔術師黒井ミサが転校してくることで対立が起こるなんてのは、まさに原作の世界ですね。セクハラ男性教師に魔術で復讐するというのも、なかなかそれ風でいいです。教室の床いっぱいに描かれた魔法陣にも、原作の読者はニヤリとします。

 各地で起こる猟奇的な死亡事故の数々。事故が起こった地点を線で結ぶと、それは悪魔召喚のために血で描かれた巨大な魔法陣になる。図形の中心にある学校こそ悪魔召喚の場。13人の若い生け贄を捧げることで、悪魔はこの世によみがえる。このスケールの大きなオープニングの割には、中盤から後半にかけての物語が物足りない。魔術によって封印された学校から、いかにして脱出するかというのが中盤以降のストーリーを引っ張るのだが、その課程で生け贄に選ばれた生徒たちがひとりまたひとりと残酷な死を迎え、黒板に書かれた数字がひとつずつ小さな数字に書き替わる。このアイディアだけは面白いんだけど、それ以外のサスペンス味は薄味なんだなぁ。ほとんど意外性がないまま、死ぬべき人が死に、生き延びる人が生き延びてしまう。ショック描写も生ぬるい。はっきり言って、このあたり退屈でした。やけに淡泊な描写の連続にはがっかり。

 黒井ミサを演じた吉野公佳より、彼女の友人役を演じた菅野美穂が圧倒的にうまい。最後に二人が生き残るのは最初からみえみえだけど、そこからの芝居は菅野が画面を全てひとりでさらってゆく感じ。菅野の圧倒的な存在感に、僕の視線は釘づけでした。この子って『大失恋』にも出てたんですね。この子を発見しただけでも、この映画には価値があるぞ。



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