遥かな時代の階段を

1995/04/01 横浜日劇
アクション映画の主役張るにしては永瀬正敏じゃ線が細い。
私立探偵濱マイクシリーズ第2弾。by K. Hattori



 前作『我が人生最悪の時』を観たときから、シリーズ第2作目は絶対に横浜日劇でと決めていました。今回念願かなって黄金町の横浜日劇でこの映画を観ましたが、それは大正解。東京では渋谷で上映しているようですが、こんな映画、渋谷で観たって面白くもおかしくもありません。

 はっきり言って、映画としてはデキが良くない。作りがチャチ。お話が陳腐。芝居がクサイ。物語のスケール感は前作を下回り、映画的な興奮やリズムは皆無です。ストーリーには細かな齟齬がたくさんあるし、テーマも絞り切れていないようで、感情の盛り上がりにも欠けるんだなぁ。どうにもノレない。

 この映画の面白さは、イベントの面白さですね。イベント色は横浜日劇で観てこそのものだから、この映画を横浜まで観に行ける余裕がある人は、絶対に横浜で観た方がいい。映画は前作『我が人生最悪の時』上映中の横浜日劇から始まりますが、横浜日劇で今まさに『遥かな時代の階段を』を観ている観客にとっては、自分たちがほんの少し前に通り抜けてきた劇場入口が、そのまま画面に登場するのだから不思議な感覚におちいります。映画には横浜日劇周辺の街並みも、そのまま登場しています。できれば、映画の前に劇場周辺をぐるりと一周しておくとなおよろしい。観客が属する現実世界と、映画の中の虚構が解け合い混じりあう混沌とした感覚に、頭がクラクラすること請け合いです。

 こうしたイベントとしての面白さを除外してしまうと、この映画にはほとんどどんな面白味も感じることは難しい。これは前作でも感じたことだけど、登場人物が平板で陰影に乏しく、まるで魅力がない。人物たちに魅力がない以上、「この映画の主人公は横浜という街自身だ」みたいな、苦しいほめ言葉に逃げそうになる。しかし、横浜日劇の観客が劇場の周りをひとわたり歩けば、この映画が黄金町周辺の街の表情を、少しも魅力的に描き切れていないことにすぐ気がついてしまう。映画館の周りの風景は、映画の何倍も何十倍も面白いんだよな。

 なんとも悲しい現実だが、主人公である濱マイクにぜんぜん魅力がないのは致命的。永瀬はうまい役者だと思うが、相変わらずスターの気風に欠けるのは否めない。この役柄なら当然持たねばならないはずの、スター俳優としてのオーラは皆無。スクリーンに全然映えないのだ。

 前作では一瞬にして宍戸錠にくわれた永瀬だが、今回は岡田英次・鰐淵晴子らの存在感に、完全に飲み込まれている。僕が観たところでは、杉本哲太にすら負けていると感じた。

 シリーズ構想の仕掛けばかり目立つ、苦しい映画。しかしながら、イベントとしては充分楽しめる。やっぱり第三作も横浜日劇で観るしかなさそうだ。



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