嵐を呼ぶ楽団

1995/01/29 大井武蔵野館
名門ジャズバンド復活を目指す若者の野望と挫折と恋と友情。
温泉街で突然始まるジャズバトルには拍手喝采。by K. Hattori


 父のあとを継いで、自分の楽団を日本一のビッグバンドにすることを夢みる若者。そして、メンバー達との友情、歌手との恋。定石をふまえた物語展開と、スピード感あふれる演奏シーン。こんなすごい音楽映画が日本にあったとは!

 キャラクターの造形や台詞、物語の展開がかなり強引。これで出演する役者たちにパワーがなければ、物語に引きずり回されて映画がバラバラになってしまっただろう。しかし、主演は宝田明、高島忠夫、雪村いづみ、朝丘雪路といったそうそうたる顔ぶれ。はっきり言って、これはかなり濃い。最初は「うへえっ」という感じだが、それを通り越すと、どっぷりこの世界にはまってしまう。

 前半のメンバー集めは黒澤の『七人の侍』を思わせるが、メンバーの大半を菊千代ばりに主人公のもとに押しかけさせることで、エピソードをコンパクトに処理している。ま、多少強引ではあるが、これはこれでよし。たっぷり描かれるのは、高島忠夫演ずるトランペッターと、宝田演ずるバンマスのピアニストの出会い。宝田の作曲した曲を列車のデッキで演奏するシーンは、忘れることのできない名場面。この絵にはしびれた。曲もいい。

 ふたりが意気投合して街へくり出すと、そこで出会うのが流しのギター弾き水原弘。乱暴な言葉のやり取りからケンカになった高島と水原が、宝田の提案で音楽勝負をするあたりなど、頭の中に〈熱血〉という文字が去来する。夜の盛り場、しかも路上で繰り広げられる壮絶なジャズ・バトル。高島の超絶技巧に水原のギターも技巧を凝らした演奏で切り返し、ふたりのバトルはやがて火花を散らすジャム・セッションへと発展。ここに仲間がまた増える。わかりきった展開とはいえ、ここまで正々堂々とやられるとうなるしかない。やられた。

 夢に彩られていた野心は、その夢が実現したとたん、むき出しの野心に変わる。かつて主人公の夢に共感したバンドメンバー達は、そんな彼の残酷さに耐えられず、ひとりまたひとりと去って行く。メンバーが全て去ったとき、ただひとり残された主人公は、初めて友の大切さを知る。孤独をまぎらせるように弾くピアノのメロディーに、友の演奏がかぶさる幻想が悲しい。ピアノの演奏から始まった幻想のセッションが終わり、最後にピアノだけが残されたときの寂りょう感、孤独感。見事な名シーンだ。

 バンドを復活させるためには、中心メンバーだった高島と宝田が和解しなければならない。友人達の説得で和解の場を持つことになるふたりだが、約束の時間になっても高島が現れない。なぜだ、まだ許してはくれないのか。苦悩する宝田。時計は真夜中を過ぎる。その時、窓の外から聞こえてくる懐かしい曲。ああ、「午前0時のブルース」。泣ける!


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