シャドー

1994/11/21 東劇
ラッセル・マルケイがアレック・ボールドウィン主演で撮った傑作アクション。
アメコミの馬鹿馬鹿しさを見事に映画化している。by K. Hattori


 ラッセル・マルケイの魅力が炸裂する、B級アクション・ヒーロー映画。全編を彩る映像美学と、いかがわしげな疑似科学。豪華なセットも相まって、なんともレトロな雰囲気がうれしいじゃありませんか。絵に描いたような悪者と、絵に描いたようなスーパー・ヒーローが、絵に描いたようなニューヨーク(これは文字どおり)を舞台に繰り広げる、絵に描いたような大活劇。主演がこれまたウソみたいに胸毛の濃いアレック・ボールドウィンと、原始人から中国皇帝まで幅広い芸域を誇るジョン・ローン。物語の内容は当然、ウソでかためた絵空事です。

 この監督は何本映画を撮っても、常にかぐわしいB級感覚を失わない人。誤解を恐れずに言えば、大衆消費財としての映画に、徹底してこだわっている人ですなぁ。絶対にA級の大作や文芸路線には行くもんかと、踏ん張っている感じがある。それがいい。これと同じようなB級こだわり監督にはサム・ライミがいるけど、彼の新作『クイック・アンド・デッド』はシャロン・ストーンとジーン・ハックマン共演の西部劇ですって? ちくしょう、早く観たいじゃねぇか。……いかん、脱線した。

 なにしろマルケイ監督は、シリアスに作ろうと思えばいくらでもシリアスに作れる『リコシェ』でさえ、刑務所の中で物々しい防具をつけたジョン・リスゴーにチャンバラさせてしまう人だものね。あれはケッサクだった。他の場面はどうでもいいけど、あそこだけは忘れられないよ。『ハイランダー2』のショーン・コネリー登場シーンとか、地下鉄暴走の荒唐無稽な加速シーンとか、どう考えても笑うしかないシーンを大真面目に作ってしまうのね。しかもそれが、たまらなく魅力的なのだ。

 この人は現実味のあるストーリーより、多少常識のタガが外れた物語の方が、力量を発揮できるタイプなんでしょうね。僕は『ハイランダー2』を観てそう感じました。そのマルケイ監督に打ってつけの素材が、この『シャドー』だったんでしょう。ぶっとび加減がダテじゃないもんね。原作は膨大なエピソードを持つ古典的なアメリカン・ヒーローだそうだけど、『ジュラシック・パーク』や『カリートの道』の脚本家デビッド・コープが、それをコンパクトにまとめあげている。

 緩急自在・縦横無尽なカメラワークは、観ている者にめまいを起こさせること必至。猥雑な物語の中でも、映像はあくまでもシャープでクリアーなのです。これもまた、マルケイ映画の魅力のひとつ。これはすでに完成された、職人芸の世界ですな。

 一度観たら二度と忘れられない。それでいて、二度観る必要を全然感じないラッセル・マルケイの映画が、僕は大好きです。彼は今後も〈芸術〉なんか目指さず、ひたすらB級のままでいて欲しい。


ホームページ
ホームページへ