ナイトメアー・ビフォア・クリスマス

1994/10/26
手作業の人形アニメと最新コンピュータ制御カメラのドッキング。
ティム・バートンの個性が脚本に音楽に美術にきらめく。by K. Hattori


 僕はこの映画を観て1982年にジム・ヘンソンとフランク・オズが監督したファンタジー映画の傑作『ダーク・クリスタル』を思い出した。人間の想像力が作り出した全く架空の世界を舞台に繰り広げられる映画という共通点もあるが、それより共通するのはその徹底した手作り感覚。『ダーク・クリスタル』の精密なマペットにもびっくりしたが、この『ナイトメアー・ビフォア・クリスマス』はそれよりさらに手の込んだストップ・モーションアニメの手法で、100%手作りの幻想世界を創造した。これだけのものを作り出すクリエイターのイマジネーションと、それを実現させたアニメーターたちの職人芸には参った。それにしても、アメリカ映画は作り手の層が厚い。これだけの映画をひょいと作れるだけの職人集団が存在しているとは……。

 人形アニメはハリーハウゼンのダイナメーションが有名で、サム・ライミの『キャプテン・スーパーマーケット』はそれを現代風にアレンジした怪作だった。今回『ナイトメアー・ビフォア・クリスマス』で使われた手法にはファンタメーションという名称が付けられているが、特徴は徹底したリップ・シンクロ(これはディズニー・アニメなら常識か……)とコンピュータ制御のカメラを利用した移動撮影。アニメーターの手作業とコンピュータを併用したこの技術によって、人形たちは画面の中で命を吹き込まれる。特に主人公ジャックのめまぐるしく変わる表情には驚かざるをえない。それがリップ・シンクロで歌までうたうのだから、これはもう驚異である。

 しかしながら、技術に感心してばかりもいられない。ティム・バートンの作品としてこの映画を見ると、どんな表現手法をとってもバートンはバートンだということがよくわかる。このハチャメチャ具合は『ビートルジュース』のそれをどうしたって連想させるし、ダークでグロテスクなビジュアル感覚は『バットマン・リターンズ』につながるものだ。ジャックがプレゼントを配ってまわる、マッチ箱のような家並みが『シザーハンズ』のそれとうりふたつだってことにもすぐ気がつくはず。また、直前に併映される短編『フランケンウィニー』との共通点ならすぐにわかるだろう。墓場のデザイン、そこからよみがえる犬、勉強のため分厚い本を読みふける主人公など、10年前の作品とまるきり同じなのも面白い。

 手をかえ品をかえ、自分の中にあるイメージを繰り返し映像にするティム・バートン。ここまで作家性を前面に押し出す人が、メジャーで作品を撮れて、しかもそれがちゃんとヒットするのが驚異と言えば一番の驚異。個人の匂いが払拭された、当たり障りのない映画が多いアメリカのメジャー作品の中で、ここまで作家臭をプンプンさせているのはもはや異常だ。ティム・バートンという希有な作家には、賞賛をこえた畏敬の念を持つしかない。


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