ゾンビ
(ディレクターズカット)

1994/10/21
ジョージ・A・ロメロが自作を再編集したディレクターズカット版。
マニア以外にはどこがどう変わったのかわからん。by K. Hattori


 松竹シネクラブ会員でこの映画を観ようとしている人は、忘れずに会員証を持っていくように。新宿のジョイシネマだと、会員割引がきいてシニア料金同様の千円で入場できます。パンフレットも購入することを考えているのなら、会員用の優待券を持っていくとさらに結構。優待券についているパンフレット引換券を使えば、1500円もする豪華なパンフレットが手に入るはずです。僕はパンフレット不要なので会員割引で入場した口。もし劇場でパンフレットの引き替えを渋られても、あしからずご了承ください。

 監督ジョージ・A・ロメロの名を一躍高めた作品の〈ディレクターズカット〉完全版です。完全版でない方は以前にテレビだかビデオだかで見た程度。特に思い入れのある作品でもないので、編集の違いの細部などマニアに受けそうな部分についてはまったくわからない。ただ、この作品がきっかけになって露骨な残酷残虐描写が映画の中にどんどん取り込まれ、〈スプラッター・ムービー〉という新ジャンルを確立さた功績は大きいと思います。

 死者が生き返るのも襲われた人間がバケモノ達の一味になってしまうのも古典的な素材ですが、この映画の新しさと恐さは、とにかく圧倒的な物量による圧迫感にあります。やっつけてもやっつけても次々現れるゾンビたち。終わりのない戦いを少人数で戦い抜かねばならない焦燥感と閉塞感。ショッピングセンターの周りを常に右往左往しているゾンビたちが、安全なはずの内部にいる人間を心理的に追いつめて行く。中にいれば安全、外には出られない、外部で何が起こっているのかわからない。広大なショッピングセンターの中で、物語は密室を舞台にした心理劇の様相をていしてくる。これがまた、なかなか見応えのある室内劇に仕上がっているのです。各キャラクターもよく描けていますし、演出もじつにデリケートですね。提出されているテーマにも普遍的なものがあると思います。

 ただ、この映画はやっぱりどこをどう見たって〈ゲテモノ〉でしかありません。ゾンビの描き方や徹底した残酷残虐描写には、作者たちの熱い情熱を感じてしまう。映画で描かれているテーマ云々以前に、製作者たちがまずゾンビや残酷描写を描きたかったのは一目瞭然でしょう。終盤にでてくる略奪団も、ただゾンビに食われにでてきたようなものですしね。あれなら最初からヘリで逃げてしまえばよかっただろうに。

 すごく面白い映画だと思います。脚本もいいし、役者の芝居もいい、演出もしっかりしている。でも僕の趣味ではない。血生臭さが鼻について、拒絶反応を起こしてしまうのですね。こればっかりは趣味嗜好の問題だけれど、この映画に血道を上げるマニアの気持ちが、僕には理解できませんねぇ。(今さら理解するつもりもないので、解説してくださらなくても結構です。と、念のためつけ加えておく。)

追加

 肝心なことを書き忘れたんですが、この映画を見終わって一番ショックだったのは、映画の最後のエンドクレジットが流れると同時にまだ暗い場内にドッと入ってくる次の回の観客が、まるでゾンビの生き写しのように見えたことでした。薄明の映画館の中で、スクリーンにはショッピングセンターのゾンビが映し出され、通路には空席を求めた疑似ゾンビがうろうろと動きまわる様は、かなり不気味です。僕はスクリーンと館内を見比べて、背筋がゾッとしてしまいました……。


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