ギルバート・グレイプ

1994/09/09
ジョニー・デップとジュリエット・ルイス主演による爽快な後味の映画。
恐るべきはレオナルド・ディカプリオの存在感。by K. Hattori


 『カリフォルニア』で僕をノックアウトしたジュリエット・ルイスを目当てに観た映画だったけど、畑の中に続く一本道の彼方にキラキラと輝くキャンピングカーの隊列が登場するオープニングから、僕はこの物語に引き込まれました。家族の苦労を一身に背負ってしまったように、いつも憂鬱そうな顔をしている主人公のギルバート。歳は18になるが、精神はまるで幼児そのものの弟アーニー。トレーラーでアメリカ中を旅して回り、ふとしたきっかけでギルバート達に出会うベッキー。みんな愛らしい人物達です。

 この映画の素晴らしさは幾つもあるけれど、まずはロケーション。ギルバートの住んでいる家、アーニーお気に入りの給水塔、畑の中の一本道、ゆったりとした流れの小川、個人商店、ほこりっぽくさびれた町並み、スーパーマーケット、夕日を眺めた牧草地。これらが一体になって、アメリカの小さな田舎町・エンドーラを作り出している。当然架空の町だけれど、その様子がまるで手に取るようにわかる。空気の匂いまで感じられるようでした。

 脚本もよくできています。原作者自らが脚色した脚本は、ギルバートの置かれている立場や彼の閉塞感を、切れば血が出るような生々しさで観客に伝えます。構成も巧みで、人物配置も緻密。無駄のない必要充分な台詞。これらが俳優の肉体や、時にドラマチック、時にユーモラスな演出と相まって、画面にしっとりとした情感を漂わせている。登場人物はみんないい人なんだけど、嫌味じゃなく自然なのです。

 そしてなんと言っても、この映画の見どころは各俳優達とそれが演じた各キャラクターの魅力でしょう。主人公ギルバートを演じたジョニー・デップは少ない動きと表情から、主人公のどうしようもない苦々しさや憂鬱を表現します。ベッキーを演じたジュリエット・ルイスはこの映画でもやっぱり美人には見えませんが、表情の自然なことこの映画一番です。クローズアップでこれだけ自然な顔のできる俳優がどれだけいるでしょう。将来は大女優になるに違いないと、ひいきの僕は断言します。新作はオリバー・ストーン監督がタランティーノ脚本を演出する『ナチュラル・ボーン・キラー』。これも楽しみにしてます。白眉は知恵遅れの弟アーニーを演じたレオナルド・ディカプリオ。この映画の成功は、この役の成否にかかっていると言ってもよかったでしょうが、彼はこの難しい役柄をやすやすとこなしています。1974年生まれだからまだ10代。恐ろしい若手俳優で、今後の注目株でしょう。

 脇役陣にも見どころは多く、ギルバートと不倫の関係にある人妻を演じたメアリー・スティーンバーゲンが芸達者でこなれた芝居を見せるし、ギルバートの友人役を演じたジョン・C・ライリーとクリスピン・グローバーもいい味を出している。しかしなんと言っても圧巻は、ギルバートの母親を演じたダーレーン・ケイツ。こんな役者までそろえているところにアメリカ演劇界の層の厚さをかいま見た気がしましたが、実は彼女はこの映画が演技初体験の素人さん。それでも詰め物なしの巨体で、有無を言わせない存在感を誇示します。

 それにしても、パンフレットが700円とは驚いた!


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