冷たい月を抱く女

1994/06/29
アレック・ボールドウィンを疑惑の目で見ない観客があろうか。
ニコール・キッドマンが悪女役を快演。by K. Hattori


 言っちゃ悪いけど、あんまり出来のいい映画じゃない。ビル・プルマンとアレック・ボールドウィンは配役が逆の方がよかったのになぁ。ニコール・キッドマンは誰が見たって迫力不足だしね。キャスティングの問題も大きいけど、それ以上に脚本(物語)の構成と演出の凡庸さにも頭を抱える。この程度の脚本でもサスペンス映画の定石さえ押さえておけば、そこそこ楽しめる映画にはなるはずなんだけど。どうも気の抜けたサイダーみたいな味しかしませんね。

 物語は女学生をねらった連続レイプ殺人から始まるんですが、この猟奇的殺人事件そのものは、物語の本筋に全然関係ないわけ。途中であっさり解決しちゃうしね。ところが観客の方は最初のインパクトが強いから、この殺人事件の犯人探しにどうしても目が行ってしまう。犯人が捕まった時点で、観客にとって映画は半分終わってしまうのだな。物語の伏線として必要だとしても、同じネタは別のルートから調達することだって可能なんだから、これはまずかった。要するに単なるこけおどしなんですね。

 主人公が謀略に気が付いてからの展開が長すぎる。たまりにたまった疑問点や不審な点がほんの一瞬で氷解するのがサスペンス・ミステリー系映画の醍醐味だと思いますが、この映画ではそれがちっとも盛り上がらない。連続レイプ殺人犯の逮捕はあまりにも急転直下だし、逆に本編の方はだらだら見せすぎ。主人公が行動を起こしてからラストまでの時間は、あれの半分で済ませるべきだと思う。どうにも歯切れが悪い。

 各キャラクターの描写が一本調子で、意外性も深みもない。怪しい人物は最初から怪しいし、不審な人物は最初から不審な様子を露骨に見せる。これだけ怪しい空気に満ち満ちているのに、周りの人たちを疑おうとしない主人公が解せない。このあたりは演出ミスの部分が大きいと思うんですが、どうでしょう。例えば無表情な女刑事が登場しますが、彼女は物語の進行にあわせて、徐々に主人公と打ち解けてくる必要がある。でないとラストシーンが生きてこない。そうしたシーンがないわけじゃないけれど、彼女の表情は常に無表情。仮に彼女が要所要所で苦笑したりニヤリとしたりニコリとすれば、それだけで物語にふくらみが出てきたと思うのですが……。まぁこれは一例ね。

 全体にひどく大味で、きりりと引き締まった緊張感がどこにもない。ハリウッド・メジャーの作品だから特別退屈もしないけれど、身を乗り出して画面に見入るようなシーンもまた見あたらない。アレック・ボールドウィンは薄汚く、ニコール・キッドマンは陰影に乏しく、ビル・プルマンは影が薄い。


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