野火

1994/06/18 並木座
フィリピン戦線で敗走する日本兵は徐々に人間性を奪われてゆく。
ミッキー・カーチス主演、市川箟監督作品。by K. Hattori


 戦地で肺病を患った主人公が、隊にも戻れず、病院にも入れてもらえず、戦場をうろうろする。登場する兵士たちは徹底した無感動状態。となりで誰が死のうが生きようがおかまいなしになっている。唯一兵士が涙を流すシーンは、主人公が民家の床下から盗んだ塩を、他の日本兵が分けてもらってなめる場面。こうした最低限の生理的な欲求にしか、最終的に人間は反応しなくなってしまうのでしょうか。飯ごうで煮た雑草をガツガツと食うシーンもあるし、とにかくひどくあさましい人間の姿がこれでもかと続く。最後は人肉食にまで追い込まれる兵士たち。「猿の肉」と称して主人公に人肉を食わそうとするシーンには、人間の罪の深さを感じるしかない。市川崑の演出はドラマとしての起伏を盛り上げることより、戦場の「状況」をひたすら追いかけることに終始する。主人公は波間に浮かぶ泡沫のように、ひたすら流されてゆくが、最後にそこから脱出しようと抵抗する。その結末はやはり泡沫的なものだ。道路を横断しようともがく無数の兵士たちや、累々と続く兵の屍などは印象に残った映像。しかし、フィリピンという熱帯雨林の雰囲気は映像から伝わらない。国内ロケということが一目でわかってしまうのが興をそぐ。この映画が実際に海外でロケされていたら、とてつもない作品になっていただろうと思う。


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