新しき世界

2013/12/25 シネマート六本木(スクリーン3)
犯罪組織の跡目争いに潜入捜査官が巻き込まれていく。
男同士のぶつかり合いに目が離せない。by K. Hattori

13122502  成長著しい韓国経済界で、新勢力として頭角を現してきたゴールド・グループ。その実態は、韓国裏社会を牛耳る巨大犯罪組織だ。ところが組織を率いてきた会長が交通事故死したことから、グループ内部に亀裂が生まれる。中国進出の尖兵であるチョン・チョンたち華僑系の一派と、古参メンバーでありながら彼に一歩後れを取るイ・ジュングたち韓国系一派が跡目争いで対立しはじめたのだ。警察は内紛に介入することで、グループの力を削ぐことを画策する。そのためのキーマンは、8年前から組織に送り込んでいる潜入捜査官のイ・ジャソンだ。彼は今や、チョン・チョンの右腕とも言うべき組織の中堅幹部になっている。上司であるカン課長は、危険な任務から抜け出したいというジャソンの願いを一蹴して、より危険を伴う情報収集活動を命じる。だが警察の動きから内通者の存在を察知したチョン・チョンは、裏切り者を探すため中国から部下を呼びよせるのだった……。

 中学生の時の保険体育の授業で、人間の心理的な葛藤の基本パターンについて教わったことがある。これは映画の物語分析などに役立つのだが、教科書によれば葛藤には3種類があるという。最初は「プラスとプラス(接近‐接近型)の葛藤」だ。自分が手にしたいものが複数あるが、すべてを得ることはできない。どれかを選べば、他は捨てねばならない。今日の昼飯はラーメンにしようか、カツ丼にしようか、悩むなぁ……というパターンだ。2番目はその逆で「マイナスとマイナスの葛藤(回避‐回避型の葛藤)」。ずいぶん前に「究極の選択」などというものが流行ったが、それはこのパターンが多い。ウンコ味のカレーと、カレー味のウンコならどっちを選ぶか?みたいな話だ。どっちも選びたくないけれど、どちらかを選ばなければならない。最後が「プラスとマイナスの葛藤(接近‐回避型の葛藤)」。好きな女の子と交際したいが、告白してフラれるのは恐い……といったパターンだ。

 「AかBか?」というパターンの葛藤であれば、選択から逃れるためにCを選ぶという逃げ道がある。だが「プラスとマイナス(接近‐回避型)の葛藤」にはそうした逃げ道がない。映画『新しき世界』の中では登場人物の多くが、このタイプの葛藤にがっちりと捕らえられている。潜入捜査の仕事から逃れたくて仕方ないのに、警官としての仕事に縛られ続けているジャソン。同じタイプの縛りをかけられているのは彼だけではない。チョン・チョンも、ライバルのジュングも、カン課長も、主人公の妻ジャソンも、映画に登場する主要人物の多くが、身動きの取れない葛藤の中で苦しみ抜く。葛藤の中で人はしばしば身動きが取れなくなるのだが、映画の中では状況が次々に変化して、登場人物たちは生きるか死ぬかというギリギリの状況で次の選択を強いられることになる。

 チョン・チョン役のファン・ジョンミンが、男気にあふれた素晴らしい芝居を見せる。

(原題:신세계 新世界)

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2014年2月1日(土)公開予定 丸の内TOEI、シネマート新宿
配給:彩プロ 宣伝:ムヴィオラ
2013年|2時間14分|韓国|カラー|2.35:1
関連ホームページ:http://www.atarashikisekai.ayapro.ne.jp/
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