あなたを抱きしめる日まで

2013/12/25 アスミック・エース試写室
子供を奪われた母親が50年後に息子を探し出した実話を映画化。
若い頃のヒロインを演じた女優に注目。by K. Hattori

13122501  政治記者として活躍していたマーティン・シックススミスは、身に覚えのない政界スキャンダルに巻き込まれて失職。そんな彼に持ち込まれたのは、「50年前に修道院で子供を奪われた母親が息子を探している」という話だった。子供を探しているのは、田舎暮らしをしている平凡な中年女性フィロミナ。性知識が乏しいまま10代で妊娠した彼女は修道院で出産したが、子供が3歳のとき無断で養子に出されてしまったという。マーティンは彼女と修道院を訪ねるが、資料が火災で消失して手がかりはゼロ。だがその夜、彼は町の居酒屋で思いがけない話を聞かされる。修道院の火災はウソで、資料は修道女たちが意図的に破棄したのだという。修道院生まれの赤ん坊たちは、アメリカの金持ちが1,000ポンドの寄付と引き替えに引き取ったという。これは体のいい人身売買ではないか! 義憤に駆られたマーティンは、フィロミナの息子捜しに本腰を入れはじめるのだが……。

 2009年にイギリスで出版されたノンフィクションを、『ハイ・フィデリティ』や『クィーン』のスティーヴン・フリアーズが映画化した実録ヒューマンドラマ。映画に登場する修道院は、ピーター・ミュラン監督の映画『マグダレンの祈り』(2002)にも登場したマグダレン洗濯所だ。『マグダレンの〜』に登場したのは1960年代半ばの様子だが、本作に登場するのはそれより10年ほど前のこと。映画に登場するのは「未婚の母」たちのための施設で、大きなお腹を抱えた少女たちはここで赤ん坊を生み、その後は施設内の託児所に子供を預けて洗濯場で働き続けた。保守的なカトリックの価値観では、未婚の母になることは罪だった。この映画の主人公フィロミナは子供を逆子で出産するという命に関わる状態だったにも関わらず、「産みの苦しみは罪に対する正当な罰である」という修道女の考えから医者も呼んでもらえない。この施設では何人もの少女たちが、出産で命を落としているのだという。

 年老いたフィロミナ役はジュディ・デンチ。ジャーナリストのマーティンを、コメディアンのスティーヴ・クーガンが演じている。フィロミナは田舎暮らしの平凡な主婦という設定だが、アカデミー賞女優のデンチは何をやっても気品と優雅さが漂ってしまい、正直言って田舎のおばちゃんには見えない。もう少し庶民的な風情の女優がキャスティングされた方がよかったかもしれないが、このクラスの大スター主演でなければこの映画が日本公開されたか疑わしかろう。このあたりは痛し痒しだ。劇中で光っていたのはむしろ、若い頃のフィロミナを演じたソフィー・ケネディ・クラーク。彼女が演じた素朴な田舎娘が、ハンサムな若い男に口説かれて身体を許してしまう様子、思いがけない妊娠に恐れおののく姿、幼い息子に対する打算のない愛情の大きさなどに説得力があればこそ、「50年後に息子を探す」という物語が成り立っているのだ。

(原題:Philomena)

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2014年3月15日(土)公開予定 新宿ピカデリー、シネスイッチ銀座、Bunkamuraル・シネマ
配給:ファントム・フィルム 宣伝:ムヴィオラ
2013年|1時間38分|イギリス|カラー|1.85:1|ドルビーデジタル
関連ホームページ:http://www.mother-son.jp/
関連ホームページ:The Internet Movie Database (IMDb)
原作:あなたを抱きしめる日まで
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