パラダイス:希望

2013/12/13 京橋テアトル試写室
ダイエットキャンプに参加した少女が施設の医師に恋をする。
好意を持たれる中年医師のダメっぷりがいい。by K. Hattori

13121303  13歳のメラニーは、チャーミングだが結構太めの女の子。母がケニアに旅行に出かけている間、彼女はおでぶな子供たちを対象にした夏休みダイエットキャンプに参加することになった。入所する施設は、人里から離れた山の中にある。キャンプに参加しているのは、同じ年頃の子供たちばかり。そんな中で、メラニーは施設の中年男性医師に興味を持つ。恐そうな顔をしているが、診察室でふたりきりになるとトボケた言動でメラニーを笑わせてくれる面白い先生だ。メラニーはしばしば診察室をたずねるようになる。それを口実にして、彼に会うためだ。そう、これは13歳の乙女が経験する初めての恋なのだ。医師はメラニーに打ち解けた態度を見せていたが、彼女の自分への好意を察すると注意深く距離を取るようになる。親しい関係は消え失せ、彼が冷たい態度を取ることもある。言葉には出さないものの、メラニーはこのことにひどく傷つき自暴自棄になっていく……。

 ウルリヒ・ザイドル監督の『パラダイス』3部作の完結篇は、思春期の少女を主人公にした青春映画だ。主役のメラニーは1作目『愛』の主人公テレサの娘であり、2作目『神』の主人公アンナ・マリアの姪にあたる。彼女は1・2作にも少しずつ顔を出しているが、そこではテレサやアンナ・マリアの人物像を彩る小さな役目を果たしていたに過ぎない。背景のまったく見えない点景としての人物だ。だがどんなに小さな人物でも、それぞれが抱えたドラマがある。この3部作を全体として観ると、そんな当たり前のことを思い知らされる。この世界には何者でもないその他大勢なんていない。誰もがそれぞれの日常を、傷つき痛めつけられながら懸命に生きている。『パラダイス』3部作は個々に観ればどれも皮肉っぽくて意地悪な映画だが、じつは人間に対する優しさにあふれた作品なのではないだろうか。

 この映画はメラニーの視点で観れば青春映画だし、そうカテゴライズすることに何の問題も感じない。だが僕はむしろヒロインに好意を寄せられる中年医師の態度に共感し、半ば同情しながら観ていた。基本的にこの人は、仕事そのものはつまらないんだろうと思う。都市部の病院で本格的に働くのではなく、ダイエットキャンプ用の施設で子供相手に健康診断に毛の生えたような仕事をしているのだ。ここに医師としてのやりがいがあるとは思えないし、仕事以外の場面で面白い何かがあるとも思えない。彼がメラニーとのおふざけに興じるのは、彼が退屈していたからなのだ。単なる気晴らし。だがメラニーが自分に真剣に好意を寄せていることを感じ取ると、彼女の存在が面倒くさくなる。彼は仕事に真剣に向き合う気もないし、施設にいる子供たちと真剣に向かう気もなく、自分に好意を寄せてくれる少女と向き合う気もないのだ。

 情けないダメ中年オヤジだが、彼にもきっと見えないところに語るべきドラマがあるのだろう。

(原題:Paradies: Hoffnung)

Tweet
2014年2月22日(土)公開予定 ユーロスペース
配給:ユーロスペース 宣伝:テレザ
2012年|1時間31分|オーストリア、ドイツ、フランス|カラー|1:1.85|5.1ch
関連ホームページ:http://www.paradise3.jp
関連ホームページ:The Internet Movie Database (IMDb)
関連商品:商品タイトル
ホームページ
ホームページへ