映画 中村勘三郎

2013/12/02 松竹試写室
型にこだわった型破りな歌舞伎役者18代目中村勘三郎。
その襲名から死までを描くドキュメンタリー。by K. Hattori

13120202  2012年12月5日に57歳の若さで亡くなった十八代目中村勘三郎。1959年に五代目中村勘九郎として3歳で初舞台を踏み、2005年に十八代目中村勘三郎を襲名。この映画は勘三郎が父の名前でもあった勘三郎を襲名する前年から、勘三郎の死までの映像で構成されたドキュメンタリー映画だ。勘三郎は「勘九郎」時代にもさまざまなエピソードがあるのだが、この映画はタイトルの通り彼の「勘三郎」としての生涯にスポットを当てている。勘三郎と名乗るようになってからは、10年にも満たない短い生涯になってしまった。映画の中には舞台の上で、あるいは舞台裏で、汗まみれになって全力疾走する勘三郎の姿が何度も出てくる。勘三郎としての7年間は、まさに終始全力疾走だったという、映画の作り手の思いが込められているのだろう。

 取り上げられているエピソードは2004年の平成中村座ニューヨーク・リンカーンセンター公演から、翌2005年の襲名披露、2006年に日本全国を回っての襲名披露興行、2007年のニューヨークでの中村座再演、2008年のヨーロッパ公演などを経て、2010年の突発性難聴での療養と舞台復帰、2011年の長男・六代目勘三郎の襲名を経て、2011年の食道がん発見へと続いていく。あちこちに舞台風景も散りばめられているが、舞台役者の魅力は舞台でこそ輝くもので、映像に記録されたものはその写し絵、影法師みたいなものに過ぎない。しかしその影法師ですら、勘三郎はとてつもなく魅力的に見えるのだが……。おそらく彼の舞台を生で見ていた歌舞伎ファンは、この映画の舞台風景を見て「本物の魅力の何十分の1でしかない」と思うだろう。仕方がない。それが映画の、映像の宿命なのだ。(そうした制限がなければ誰も生の舞台なんて見に行かなくなってしまうだろう。)

 そんなわけで、映画の見どころは舞台以外の場所での勘三郎にある。稽古場や舞台で若い役者や弟子たちに厳しくダメ出しを繰り返す様子もあれば、年配の役者から逆に稽古を付けてもらう勘三郎の様子も出てくる。歌舞伎役者というのは稽古を繰り返して、芝居の型を徹底的に身に着けて行くのだと、その厳しさを痛感させられる場面が次々に出てくる。弟子(息子)に向かって、「気持ちが入っていても、お客さんにそれが伝わらなきゃダメなんだ。そのためには芝居の型が大事なんだ」と言いながら、その場で即興で役を演じてみせる勘三郎の凄味。子ども電話相談室で無着成恭が語ったという「型のある人間が型を破ると型破り。型のない人間が型を破れば形無し」という台詞を引用しながら、「歌舞伎とは型なのだ」と繰り返す勘三郎の型破りな魅力にしびれる。

 しかしこの映画はその最初から、避けることのできない「勘三郎の死」に向かって進んでいく悲劇でもある。その死の前後で、わずかに構成の時系列がゆらぐ。このゆらぎに観客は涙するはずだ。

Tweet
12月21日(土)公開予定 東劇
製作:フジテレビ
2013年|1時間35分|日本|カラー
関連ホームページ:http://www.kyodo-tv.co.jp/kanzaburo_movie2013/index.html
関連ホームページ:The Internet Movie Database (IMDb)
DVD:映画 中村勘三郎
ホームページ
ホームページへ