レッド・ファミリー

2013/10/22 TOHOシネマズ六本木ヒルズ(Artスクリーン)
仲の良い3世代同居家族は北朝鮮のスパイだった。
製作・脚本は奇才キム・ギドク。by K. Hattori

tiff26  南北朝鮮の境界線を眼下に見下ろす景勝地で、一組の家族が休日を過ごしている。記念撮影に夢中になっている夫婦を見て「ここは撮影禁止なんですよ」と注意する食堂の店員に、「まあまあ記念ですから」と苦笑いする夫婦の父親。仲の良い夫婦と父親、そして高校生の娘。微笑ましい家族だんらんの風景だ。しかし家に帰ると彼らの様子は一変する。じつは彼らは家族を偽装した北朝鮮のスパイ。家に帰ればリーダー役の妻(に扮した女)による、厳しいダメ出しが待っているのだ……。

 キム・ギドク製作・脚本による、南北分断をテーマとしたコメディ。監督のイ・ジュヒョンはこれがデビュー作で、ところどころにギクシャクしたところもあるが、ストーリーの面白さがそれを補って余りある。外向きには仲の良い家族を演じつつ、家の中に入れば他人同士になる北朝鮮スパイの疑似家族と、トラブル続きで口喧嘩が絶えず、崩壊寸前になっている隣家の家族を対比させているのがこの映画のアイデアだろう。

 映画は北朝鮮スパイの過酷な日常をコミカルに描いていくが、やがて浮かび上がってくるのは、このスパイたちが故郷の家族を当局の人質に取られているという残酷な事実だ。家族の生活を守るため、家族の命を救うため、彼らは命がけで非人間的な任務に就いている。北朝鮮当局に対する忠誠心がないわけではないが、それは任務を正当化するための口実になっている。家族のためにたったひとりで韓国に潜入し、赤の他人である同僚たちと生活を共にしながら、諜報や暗殺の任務に携わるスパイたち。時には何の罪もない人の命を奪う仕事を、家族のために正当化できるだろうか。身内の命を守るためなら、それ以外の人の命を奪っても許されるのだろうか。決してそんなことはあるまい。彼らはその不合理を正当化するために、北朝鮮当局への忠誠心を持ち出すのだ。

 話が面白いので全体に面白く観られるのだが、脚本の構成や演出の切れ味が鈍いと感じられるところも多い。主人公たちは高度な訓練を受けた秘密諜報員で、格闘技などにも長けているという設定。しかしせっかくの格闘技術を披露する場面が、映画の中盤以降になってやっと少しだけ出てくるというのはもったいない。同じような格闘シーンは、映画の序盤にこそあるべきだったと思う。こうしたスーパーマンぶりを映画の最初にしっかり見せておくと、北朝鮮当局の監視におどおどびくびくしている暮らしとの落差が出たはずだ。彼らが二重三重に縛られている様子が、観客にもしっかり伝わったはずなのだ。

 キム・ギドク本人の監督作よりも毒がないという見方もあるだろうが、映画終盤で主人公たち疑似一家を追い込んでいく様子は結構エグイ。ただこれも監督の演出がわりとアッサリしているのが残念だ。身動きの取れなくなったスパイたちの末路を、彼らが最後の最後に見せる「家族」の姿を、もっとドラマチックに描いてほしかった。

(原題:붉은 가족 Red Family)

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第26回東京国際映画祭 コンペティション
配給:未定
2013年|1時間39分|韓国|カラー
関連ホームページ:http://tiff.yahoo.co.jp/2013/jp/lineup/works.php?id=C0002
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