サカサマのパテマ

2013/10/20 TOHOシネマズ六本木ヒルズ(Artスクリーン)
サカサマの世界からやって来た少女パテマの冒険物語。
細かなアイデアを詰め込みすぎかも。by K. Hattori

13102001  廃坑のような地下都市の中に、隠れるように暮らしている人間たち。彼らは遠い昔に起きた天変地異から逃れ、わずかに生き残った人間たちだ。その廃坑の中を散策していた少女パテマは、巨大な穴に転落して、穴の底にあるもうひとつの世界に入り込んでしまう。そこは上下が真っ逆さまの、奇妙な世界だった。パテマはその世界でエイジという少年に出会い、彼とふたりで世界の秘密を探りはじめるのだった……。

 アイデアは面白いのだが、そのアイデアの発展方向と着地点が間違っていたようにも思う。重力の方向がまったく逆に働く世界に暮らす少年と少女が出会うという、ビジュアルとして面白さは抜群だ。手を離した途端、パラリと天井に向かって落ちていく写真や、無限の空へと落ちていく人々など、見た目の面白さには事欠かない。しかしこうしたアイデアを軸に発展させた事柄の中に、物語の中でうまくこなれていないものがある。例えばパテマが地下都市で出会ったコウモリ人間は、いったい何者だったのか? 彼らが地上からやって来たのだとすれば、そこからアイガの幹部たちがまるで何の報告も受けていないのが不自然だ。また重力の向きが正反対の世界に迷い込んだパテマが、地上の食べ物を食べ続けていたらどうなるのか。パテマとエイジがどうなるのかは知らないが、仮に地下世界の住人と地上の人間の間に子供が生まれた場合、その子はどのような形で重力の支配を受けるのか。この映画を観ていると、そんな細かなことがいちいち気になってしまう。

 上が下で、下が上になっているという並行世界が出会うことで、隠されていた世界の秘密が明かされるという物語。主人公たちは地下から地上へ、地上から地下へ、地下から地上を経て天上へ、再度地上へ、そして再び地下へ、地下からさらにその下にある地の底へと移動して行く。こうした移動のダイナミズムを十分に描き切れれば、この映画はスリル満点の冒険ファンタジーとして観客を感動させることができたと思う。ところがこの映画はそこに、細々といろいろなエピソードを付け加えて枝葉を茂らせ、移動のダイナミズムという物語の幹を覆い隠してしまう。腹黒い人物たちが巡らせるちんけな権力争いなどを見ていると、この映画の中にある世界の広がりが、かえって小さなものになってしまった気がするのだ。

 物語の構造としては、地上に行ったり地下に行ったり、また地上に戻ったりと慌ただしすぎる。これは地下から地上へ、さらに天上へ、地上に戻って再度地下へ、地の底へ……というシンプルな動線にする余地があったはずだ。物語の規模に比べると人物も無駄に多いし、キャラクターの性格付けも無意味に複雑なものにしてあると思う。パテマが集落の長(おさ)の娘である必要はないし、先行して地上に向かったラゴスは不要。治安警察のジャクに細かなエピソードが多すぎるくせに、独裁者イザムラは説明不足に思える。

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11月9日(土)公開予定 角川シネマ新宿ほか全国ロードショー
東京国際映画祭 特別招待作品
配給:アスミック・エース
2013年|1時間39分|日本|カラー
関連ホームページ:http://patema.jp
関連ホームページ:The Internet Movie Database (IMDb)
ノベライズ:サカサマのパテマ (小学館文庫)
関連コミック:サカサマのパテマ another side
関連書籍:サカサマのパテマ 公式設定資料集
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