マリー・イズ・ハッピー

2013/10/18 TOHOシネマズ六本木ヒルズ(Artスクリーン)
高校最後の年を迎えた女子学生のツイートで綴る青春。
これで2時間5分はちと長すぎる。by K. Hattori

tiff26.png  高校最後の年を迎えたマリーは、ルームメイトと一緒に卒業アルバムの制作委員に名乗りを上げる。作るからには徹底してこだわり抜いたアルバムを作りたい。写真担当のマリーは日没後の数分間だけ現れるマジックアワーを使って写真を撮り始めるのだが、これではまるで作業がはかどらない。彼女たちを温かい目で見守ってくれた担当教師が退職すると、アルバム制作の監視役についた教師は彼女たちのこだわりにまったく理解を示さない。アルバム制作はどんどん本来の意図から外れていく。マリーは近所で出会った青年に恋をするが、この恋も無残に砕け散る。あらゆることが行き止まりになったある日、学校中を驚かせる凄惨な事件が起きた……。

 原作はマリーという少女がつぶやいた410通のツイートだとのことで、映画の中には物語の進行に合わせていくつもの短文が字幕でインサートされていく。ただしこのツイートは物語の内容を説明するものでも、補完するものでもない。映画の原作がこれらのツイートだとしても(そのようにクレジットされている)、物語はまったくのオリジナルなのかもしれない。いや、たぶんオリジナルなのだろう。原作となるツイートは、今どきの女子高生たちの気持ちをリアルに再現するための素材として用いられているわけだ。

 もう何十年も前の日活青春映画全盛時代、青春映画を撮っている脚本家や映画監督たちが大型のテープレコーダーを持って街に出て行き、その当時の若者たちが話している言葉を収集して回ったという話をどこかで読んだことがある。その結果生まれたのが、例えば中平康の『狂った果実』などの作品だったという。(記憶だけで書いているので別の映画だったかもしれないけど……。)テープレコーダーではなくても、優れた脚本家はいつでも街の中で話されている普通の人々の言葉に耳を傾け、それを映画に取り込もうとしている。この映画ではそうした新しい若者言葉として、インターネットの中に放たれる短文のつぶやきに注目しているのだ。

 しかしこのアイデアが、映画の中で上手く使われていたかどうかは疑問だ。タイ語のツイートがピンと来なかったという部分はあるかもしれないが、同じような「文字」を用いた映画にはペ・ドゥナ主演の韓国映画『子猫をお願い』があった。この映画では携帯電話を使ったメールのやり取りが効果的に用いられていたが、それらは物語と有機的に結びついて力強い表現になっていたと思う。それに比べると、『マリー・イズ・ハッピー』のツイートは表層を流れていくばかりで印象に残らないのだ。アイデアは面白いのに、それが生きていない。

 ただしこのアイデアは面白いので、今後は他の映画でこの方法をパクればいいと思う。土台となる物語とツイートを並走させつつ、それを上手く組み合わせられれば面白い映画ができるのではないだろうか。

(原題:Mary is Happy, Mary is Happy)

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第26回東京国際映画祭 ワールド・フォーカス
配給:未定
2013年|2時間5分|タイ|カラー
関連ホームページ:http://tiff.yahoo.co.jp/2013/jp/lineup/works.php?id=W0007
関連ホームページ:The Internet Movie Database (IMDb)
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