そして父になる

2013/10/03 楽天地シネマズ錦糸町(シネマ1)
カンヌ映画祭で審査員賞を受賞した是枝監督の新たな傑作。
映画後半はずっと泣いていました。by K. Hattori

13100302  大手建設会社で大型プロジェクトの責任者を任されている野々宮良多は、妻とふたりで6年前に子供を生んだ前橋の病院に呼び出される。「お宅のお子さんは6年前に取り違えられた他人の子供です」という説明に耳を疑うふたり。だが後日行われたDNA鑑定で、取り違えの事実が明らかになる。6年間育ててきた息子の慶多は群馬で電気店を営む斎木夫妻の子供で、自分たちの本当の子供は斎木夫妻のもとで琉晴(りゅうせい)と呼ばれ育てられていた。顔を合わせた良家の親たちは、とりあえず家族同士で交流を持ちはじめる。最終的には、取り違えられた子供をそれぞれ交換するのだ。だがこれは、子供にとっても親にとっても、とてつもない痛みを伴うことだった……。

 赤ん坊取り違えという大事件が映画の中心モチーフではあるのだが、この映画の脚本はかなり重層的に出来ている。浮かび上がってくるのは、すれ違いの多い野々宮家の夫婦関係であり、野々宮良多と父夫婦の関係だ。斎木夫妻との交流を通して、野々宮家の子育てに対する考え方や、子供との接し方なども、輪郭がクッキリと浮き彫りになってくる。「父とは何か」「母とは何か」「家族とは何か」「誰かの子供になるとはどんな意味なのか」「血の繋がりとは何か」といった大小の問いかけが、互いに共鳴し合いながら物語の中を満たし、観客にも同じ問いを鋭く突きつけてくるのだ。

 映画の前半は「これから二組の家族がどんな選択をするのか?」というサスペンスでハラハラさせるのだが、映画の後半で実際に子供を交換してからは、じわりじわりと涙が出て止まらなくなってしまった。号泣させるような映画ではないが、これは泣ける。誰もが優しく互いを思いやっているのに、心ならずも深く傷つけ合ってしまう家族の姿が痛ましい。血の繋がった我が子を手もとに引き取って一緒に暮らす中で、少しずつ本当の自分の子供に対する戸惑いが愛情へと変わっていくことを実感する夫婦。だがそれが、これまで6年間一緒に暮らしてきた息子への愛情を裏切っていることになるのでは……と悩む姿にも生々しいリアリティがある。

 是枝監督は相変わらず子供を使いこなすのが上手く、登場する子供たちの自然な振る舞いには映画を観ながらつい引き込まれてしまう。しかし子供たちの演技を超えた振る舞いを、しなやかに受け止める周囲の俳優たちの存在こそが、この映画を下支えしているのだ。福山雅治は芝居がやや固いのだが、それが子供を前にどう振る舞っていいのか戸惑っている主人公にうまくはまっている。尾野真千子は今回受け身の芝居だったが、演技の包容力を感じさせる。びっくりするぐらい良かったのが、斎木夫妻を演じた真木よう子とリリー・フランキー。ワンシーンだけ登場した風吹ジュンと夏八木勲も印象に残る。樹木希林や國村隼は安定した芝居で、驚きもないかわりに、映画のどっしりとした重石になっている。

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9月28日(土)公開 新宿ピカデリーほか全国ロードショー
配給:ギャガ
2013年|2時間|日本|カラー|1.85:1|ドルビーデジタル
関連ホームページ:http://soshitechichininaru.gaga.ne.jp
関連ホームページ:The Internet Movie Database (IMDb)
サントラCD:そして父になる
ノベライズ:そして父になる
参考文献:ねじれた絆―赤ちゃん取り違え事件の十七年 (文春文庫)
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