「また、必ず会おう」と誰もが言った。

2013/09/06 シネマート六本木(スクリーン3)
東京から熊本を目指す高校生の成長を描くロードムービー。
監督は青春映画を得意とする古厩智之。by K. Hattori

13090602  香月和也は熊本の高校生だが、何でもないことで意味のない嘘をついてばかりいる。「東京の空気は臭い」というのも、そんな些細な嘘だった。「こないだ東京に行ったけど、東京は臭いよ」「お前本当に東京に行ったのかよ」「ホント、まじだって。途中で女と知り合ってさ」「それ本当だったら証拠の写真見せろよ」「ああ、いいよ。でも携帯の機種変してからデータ移してないんだ。帰ってからメールで送るよ」「必ずだぞ」。というわけで、和也は友達に写真を見せなければならない羽目になる。証拠写真を撮るために和也は家族に嘘をついて金を工面し、格安航空券を手に入れて東京へ。なんとか無事写真を撮ったものの、帰りの飛行機に乗りそびれてしまうのだった……。

 喜多川泰の同名小説を、『ホームレス中学生』や『武士道シックスティーン』の古厩智之監督が映画化。周囲の目を気にしてばかりいる見栄っ張りの高校生が、口から出任せの嘘を正当化するためにひとりで東京に出かけ、そこから無一文で故郷熊本を目指すロードムービーだ。主人公和也を演じるのは、主演作「仮面ライダー鎧武(がいむ)」の放送が控えている佐野岳。本作は彼にとって映画初出演・発主演作だというが、周辺の出演者がベテラン揃いで厚味のある作品になっている。主人公の両親は古村比呂と国広富之。空港で出会う売店のおばさんが杉田かおる。その元夫が塚本晋也。物語に決定的な存在感を刻み込むトラック運転手にイッセー尾形。他にも、徳井優、嶋田久作、水木薫、戸田昌宏、唯野未歩子など、映画でお馴染みの実力派がずらりだ。

 映画に出てくる高校生は、今どきの若者像そのものではないのかもしれないが、大人の目から見た「今どきの若者」をうまく具象化していると思う。仲間内で目立つためなら平気で嘘をつく。嘘を追究されると言い訳をする。言い訳にボロが出ないように必死に取り繕う。アルバイト先でつまらないイタズラをしてSNSに投稿し、思いがけない大炎上を起こしてしまうのもきっとこんな若者たちなのだろう。若者には人生経験がない。人生経験は周囲との軋轢や衝突から生まれるものだが、人間はそれを厭うものだ。できれば軋轢も衝突もない方が楽に生きられる。大人たちがまがりなりにも人生経験を積んできてしまったのは、誰もができれば避けたい諸々の事柄に、否応なしに出会ってしまったというだけのことだ。この映画の中で、主人公の和也もそうした諸々の出来事に出会う。出会ったことで彼は成長して行く。

 イッセー尾形演じるトラック運転手の柳下が、「自由」について語る場面が印象的だ。自分の不運や不幸を他人のせいにせず、自分で引き受けること。「それが、自由ってもんだ!」という。だが人間はどんなに自由に生きようとしても、最後は押し付けられた不自由さの中で、肩をすくめて生きることを強いられる。「笑えねえんだよ。これも人生!」と顔をしかめる場面の格好よさ。

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9月28日(土)公開予定 シネマート新宿、シネマート心斎橋
配給:BS-TBS 配給協力:アーク・フィルムズ 宣伝:る・ひまわり
2013年|1時間44分|日本|カラー|ビスタサイズ
関連ホームページ:http://matakana.jp/
関連ホームページ:The Internet Movie Database (IMDb)
原作:「また、必ず会おう」と誰もが言った。(喜多川泰)
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