パッション

2013/09/02 アスミック・エース試写室
女同士の嫉妬が生み出した愛と裏切りと殺人の物語。
ブライアン・デ・パルマ監督最新作。by K. Hattori

13090202  世界的な広告代理店コッチ・イメージのベルリン支社では、新しい広告キャンペーンの企画立案中だ。クリエイティブ・ディレクターのイザベルは斬新なアイデアを思いつくが、野心家の女性支店長クリスティーンはこれを平然と盗んで自分の手柄にしてしまう。彼女はこのキャンペーンの成功を手土産に、アメリカ本社の重役室入りを狙っているのだ。「これはビジネスで、わたしたちはチームでしょ? あなたもこの席に座った後で、同じことをすればいいのよ」と言い放つクリスティーンに、まったく悪びれた様子はない。彼女は自分の欲望を満たすためなら、周囲の人間をいくらでも使い捨てに出来る冷酷な人間なのだ。彼女に翻弄されるイザベルだったが、自分のアイデアがクリスティーンの手で凡庸なものに改悪されてしまうことに我慢ならず、独断で新しいキャンペーンを本社に提案する。だがこれがクリスティーンの逆鱗に触れた。彼女はあの手この手で、イザベルを潰そうと圧力を強めてくる。その精神的な重圧から、イザベルは精神のバランスを失っていくのだった。そして事件は起きる……。

 アラン・コルノー監督の遺作『ラブ・クライム 偽りの愛に溺れて』(2010/日本未公開)を、ブライアン・デ・パルマ監督がリメイクしたもの。オリジナルでクリスティン・スコット・トーマスが演じた役をレイチェル・マクアダムスが演じ、リュディヴィーヌ・サニエが演じた役をノオミ・ラパスが演じている。Wikipediaでオリジナル版の項目を見ると関連項目としてマイク・ニコルズの『ワーキング・ガール』(1988)へのリンクがあるのだが、優秀な女性幹部とその部下、上司の恋人といった人物配置は、なるほど『ワーキング・ガール』とそっくりかもしれない。ちなみに『ワーキング・ガール』でヒロインを演じたのはメラニー・グリフィス、意地悪な上司を演じていたのはシガニー・ウィーバー。グリフィスはこの前にデ・パルマの『ボディ・ダブル』(1984)で注目されたのであった……、というわけで話はデ・パルマに戻る。

 映画の見どころはストーリーそのものではなく、デ・パルマの流麗で緻密な演出にある。映画中盤でヒロインが追い詰められていくあたりからストーリーが一気にテンポアップし、現実とも夢とも付かない奇妙な世界に突入していくくだりは面白い。フラッシュを使った回想シーンと同じテンポで、通常のドラマが展開して行くのだ。舞台上で演じられるドビッシー作曲のバレエ「牧神の午後への前奏曲」に合わせて、血なまぐさい殺人が起きるスプリット・スクリーンの面白さ。スプリット・スクリーンはデ・パルマ演出の代名詞で、これ以前にも何本もの作品で同じような演出を見せている。これぞデ・パルマ節なのだ。観客はバレエと殺人シーンのどちらにも集中できず、曖昧に視線をウロウロさせる。これこそ登場人物の心象風景なのだ。

(原題:Passion)

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10月4日(金)公開予定 TOHOシネマズみゆき座ほか
配給:ブロードメディア・スタジオ
2012年|1時間41分|フランス、ドイツ|カラー|ビスタサイズ|ドルビーデジタル
関連ホームページ:http://www.passion-movie.jp/
関連ホームページ:The Internet Movie Database (IMDb)
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