大統領の料理人

2013/08/05 GAGA試写室
ミッテラン大統領に仕えた女性プライベートシェフの物語。
食べ物があまり美味しそうに見えない。by K. Hattori

13080501  フランスの大統領官邸で1988年から2年間、ミッテラン大統領のプライベートシェフを勤めた女性料理人ダニエル・デルプシュの体験をもとにしたドラマ作品。ただし劇中での主人公の名はオルタンス・ラボリという名前に変えてあるし、大統領も役名としてはただ「大統領」になっているだけだ。主人公が短期間大統領官邸に勤めた後、南極基地の料理係をしていたことなども実話に取材したものだが、映画は実話そのものではなくかなり大幅にフィクションを交えているのだろう。映画は実録ではなく、実話にインスパイアされて作られたフィクションなのだ。ただしそれが、この映画にとって良いことなのか悪いことなのかはわからない。

 大統領官邸を舞台にしているにもかかわらず、この映画には現実の政治、国際情勢、世相などがまったく描かれていない。物語の舞台は外界から隔絶された大統領官邸の厨房と南極基地を往復しながら、時々それ以外の場所が必要最小限に挿入されるという構成だ。全体の構成としては、物語が南極基地から始まり、そこにいる「大統領官邸のシェフ」に興味を持ったテレビ取材班がヒロインの過去を掘り起こしていくというマヅルカ形式。しかし映画を観ていても、こうした構成が成功しているかどうかは疑問に思える。物語の中心は大統領官邸の側にあるのだが、そこで進行するドラマを南極でのエピソードがしばしば遮断し、全体の転がりが悪くなっているように思う。マヅルカ形式にするなら、映画の冒頭で主人公のインタビューを始め、映画の中間部は大統領官邸時代に限定してしまい、最後にエピローグとして物語が南極に戻ってくるというシンプルな形の方がよかったはずだ。この映画ではテレビ取材班が実際には彼女にインタビューしていないので、中間の回想シーンが誰のどんな回想なのかが不明瞭になっている。

 料理をテーマにした作品なので、次々に登場する美味しそうな料理の数々がこの映画にとっても最大の見どころ。しかしこの料理、美味いのかそうでもないのか映画を観ていてもさっぱり想像が付かない。せっかくならもっと美味しそうに料理を撮ればいいのに、映画の中では調理シーンがあっても完成した料理の味が伝わってこない。こうなった理由は明らかで、この映画には主人公が作った料理を大統領が食べるシーンがほとんどないのだ。食事は給仕係が大統領の部屋まで運ぶので、主人公は部屋の外までしか付いて行くことができない。主人公の目の代弁者であるカメラは部屋の外で足踏みし、中の様子を見ないままなのだ。しかしこれはまるで蛇の生殺しだ。映画はフィクションなのだから、ここは主人公をドアの外に置き去りにしてでも、カメラだけが料理と一緒に部屋の中にずかずか入って欲しかった。

 ただしこうしたフラストレーションがあるからこそ、夜の厨房で大統領がトリュフのオープンサンドを食べるシーンは観客に強い印象を残す。これはこれで美味しそう。

(原題:Les saveurs du Palais)

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9月7日公開予定 シネスイッチ銀座、Bunkamuraル・シネマ
配給:ギャガ
2012年|1時間35分|フランス|カラー|シネスコ|ドルビーデジタル
関連ホームページ:http://daitouryo-chef.gaga.ne.jp
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