HOMESICK

ホームシック

2013/07/26 映画美学校試写室
会社もなくなり家も取り壊し。行き場を失った青年の夏。
ちょっとつかみ所のない映画。by K. Hattori

13072601  再開発計画が進んで住民がほとんど姿を消している古びた住宅地。その中に1件だけ、今も人が出入りしている家がある。住んでいるのは沢北健二。30歳の独身男。以前はこの家に一家で住んでいたが、母は出奔し、妹は世界中を旅して回り、父は家を売った金で田舎でペンション経営に乗り出した。家の引き渡し日は迫っているが、健二はまだこの家に一人で住み続けている。勤めていた塗装会社もつぶれ、この家にいなければならない理由は何もないというのに……。そんな時、健二の前にこのあたりを遊び場にしている3人の小学生が現れる。家にイタズラ書きをしたり、窓に水風船をぶつけて挑発する3人と、いつしか健二は一緒になって遊び始めるのだった……。

 よくわからない映画だった。話は単純で、物語そのものがわからないわけではないが、この映画の焦点がどこにあるのかがよくわからない。主人公の健二はなぜ家に居残り続けることにこだわり、小学生たちとの遊びに興じるのか。小学生たちにとって、健二はどんな大人としてその場に存在しているのか。

 たぶん映画のキーパーソンは、かつて健二の同級生だったという不動産会社勤務の女・村山のぞみだ。同じ地域の同じような環境で育ち、年齢も同じこの二人だが、30歳になった今の境遇は大きく違っている。一方は定職もなく、住まいも失いかけながら、育った町と家にしがみついて、小学生相手に遊びほうけている。もう一方は優良企業に勤め、町から離れて独立している。健二にとって寂れた住宅街での暮らしは「今この時の現実」だが、のぞみにとって同じ住宅街での生活は「過去の思い出」であり、自分自身の手で葬り去ろうとしている「過去の遺物」なのだ。だが健二も自分のしがみついているものが「過去の遺物」であることは知っている。だから彼が子供たちと一緒に作った段ボールのオブジェは、遠い過去に滅び去った巨大な恐竜なのだ。彼は最後にそのオブジェを燃やして、過去の思い出を残した町から去って行く。

 問題はこの村山のぞみが、映画の中で果たしている役割だ。主人公の健二が自分自身の内面をあまり明確に語ろうとしないので、こうした周辺人物は、主人公の心情を聞き出したり、代弁したり、浮き彫りにしていく重要な役割を担わされている。だがこの映画の中で、のぞみはそうした役目をまったく果たしていない。この女性は健二と同じくらい正体不明で、心の中が読めない人物なのだ。のぞみは「大人の夏休み」を満喫する健二に対して、どんな気持ちを抱いているのだろう。彼女の笑いは、健二に対する優しさなのか、冷たさなのか、軽蔑なのか、憧憬なのか。

 子供たちの自然な振る舞いは面白いし、自転車で走る主人公を子供たちが追いかけ回す場面なども印象的。だが物語としてはやはり焦点が絞れず、映画としての印象は頼りないものになっている。「自然」なだけでは映画にならないのだ。

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8月10日公開予定 オーディトリアム渋谷
配給・宣伝:マジックアワー
2012年|1時間38分|日本|カラー|16:9
関連ホームページ:http://homesick-movie.com
関連ホームページ:The Internet Movie Database (IMDb)
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