台湾アイデンティティー

2013/06/19 京橋テアトル試写室
2009年に公開されたドキュメンタリー映画『台湾人生』の続編。
台湾日本語世代のたどる数奇な歴史。by K. Hattori

13061901  酒井充子監督が台湾の日本語世代を取材したドキュメンタリー映画『台湾人生』の続編。台湾は1895年から1945年までの半世紀、日本の統治下だった。その間に日本人として日本語で日本式の教育を受け、日本人として育ったのが日本語世代の人々だ。彼らは母語が日本語で、家の中で家族で会話する時も日本語で話をする。

 今回の映画は台湾国内だけでなく、日本やインドネシアにも取材対象を広げて、日本人として日本語で育った台湾人たちの戦後史を紹介していく。浮き彫りになってくるのは、日本が戦争に負けて台湾を引き揚げた後、台湾人たちが国民党政権にいかにひどい目に遭わされたかという歴史だ。

 日本統治時代に法にもとづく公正な社会を経験していた台湾人たちは、中国からやって来た「同胞」たちが台湾人を徹底的に差別し、搾取し、暴力で蹂躙していく様子を見て失望する。くすぶる不満は1947年に「二二八事件」として爆発し、一時は台湾人たちが台湾の主要な場所を占拠するが、国民党は大陸に救援を要請してこれを武力鎮圧する。その後、中国国民党は中国本土を追われて台湾へ落ち延び、蒋介石は台湾全土に戒厳令を敷いて、反政府活動家や不満分子を摘発する白色テロの時代に入る。ここで徹底的に弾圧されたのが、日本統治時代に日本式の高等教育を受けた日本語世代の人々だった。

 映画には何人もの台湾人が登場するが、語られているのは台湾が日本の統治を離れて以降の人生についてだ。白色テロで父親を殺された家族もいれば、政治犯として収容所に送られた者、祖国への帰国をあきらめた者もいる。祖国の歴史とどのような関わりを持っているかは人それぞれだが、どの人たちの人生にも、台湾の戦後史が深い関わりを持っている。台湾が別の歴史をたどっていれば、彼らの人生は今とはまったく違ったものになっていただろう。

 語られている人生にはそれぞれの人生の重みがあるのだが、僕が特に感動したのは、「戦争はどうでしたか?」ときかれて「戦争は最高だ!」と答えた老人のエピソード。台湾人の青年にとって戦争に参加するのは、自分たちが日本人と何も変わらない一人前の男だと認められるとても誇らしいことだった。だから兵隊になるのは喜ばしく、嬉しいもので仕方がない。そう顔を輝かせて語る老人が、やがて唇をわなわなと震わせながら声を詰まらせる。たどたどしい日本語で何事かを語りながら、両眼からはらはらと涙をこぼす。言っていることは断片的でまったくわからないのだが、そこにはこの老人が経てきた人生が集約している。こういう瞬間こそが、ドキュメンタリー映画の持つ凄みなのだと思う。

 紹介されているどの人生も波瀾万丈で、そのまま映画になりそうなものばかり。テレビの終戦の日特集などで、ドラマ化しても面白いかも。日台合作で台湾のキャストも入れば、向こうにも番組が売れるぞ。

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7月6日(土)公開予定 ポレポレ東中野
配給:太秦
2012年|1時間42分|日本|カラー|HD
関連ホームページ:http://www.u-picc.com/taiwanidentity/
関連ホームページ:The Internet Movie Database (IMDb)
前作DVD:台湾人生
関連書籍:台湾人生(酒井充子)
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