グランド・マスター

2013/04/22 シネマート六本木(スクリーン4)
ウォン・カーウァイ監督による葉問(イップ・マン)一代記。
映像はきれいだが、話がよくわからない。by K. Hattori

13042201  伝説のカンフー・アクション・スターとして今も絶大な人気を誇るブルース・リー。彼に中国拳法を教えた師匠として知られているのが、詠春拳の名人・葉問(イップ・マン)だ。その生涯はドニー・イェン主演で2本の映画になって大ヒット。これを受けて、ドニー版の前日譚ににあたる作品や、後日譚にあたる作品が作られるなど、香港映画界では葉問のブームが起きているのだ。これはかつて黄飛鴻(ウォン・フェイフォン)を主人公にした映画が連作されたのと同じで、実在の人物を主人公にすれば著作権が関係ないということも背景にはあるらしい。

 本作はその大人気キャラクターをウォン・カーウァイ監督が取り上げた作品だが、この監督は20年程前に『楽園の瑕』(1994)という武侠映画を作って、アクション映画ファンを良い意味でも悪い意味でも驚かせた過去がある。今回の映画はその『楽園の瑕』にも出演していたトニー・レオンを主演に迎え、またしても、良くも悪くもウォン・カーウァイらしい映画を撮り上げた。題材はどう考えても娯楽映画なのに、中身は芸術映画なのだ。映画の予告編を見て「これはすごいカンフー・アクション映画になりそうだ!」と期待していると、思いっきり肩すかしを食わされると思う。もちろんウォン・カーウァイが、芸術家肌の文芸映画作家だということは誰だって知っている。しかし映画の世界では、同じように芸術家肌の文芸映画作家だったアン・リーが『グリーン・デスティニー』を撮った前例もある。アン・リーはこの1本で大化けして、『ブロークバック・マウンテン』や『ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日』のアカデミー監督賞受賞へとつながっていく。ウォン・カーウァイにもそうした大変身を期待したのだが、残念ながらそうした結果にはならなかった。ウォン・カーウァイは、いつまでたってもウォン・カーウァイなのだ。

 物語は葉問を含めた数名の武術家たちが、1930年代から1960年代までの激動する現代中国史を生き抜く姿を描く。戦争前には多くの門下生を抱えていた武術の師匠たちだが、彼らは戦争によってすべてを失い香港に流れ着く。苦労の末に香港で武術師範として再び世に出てくる者もいれば、激変する政治状況の中で武の世界から離れる者、目的を見失って鍛え上げた武術の技を埋もれさせてしまう者もいる。物語の中心は葉問だが、それ以外の人物たちにも転々と視点が移動していくため、この映画は少々ストーリーが追いにくいし、映画として何が言いたいのかわかりにくくもなっている。

 この映画に出てくる葉問の方が、ドニー・イェンが演じた同じ人物より実際の本人に近いのかもしれない。しかし完全な実録かというとそうでもない。監督特有の映像美で世界観としての一体性はあるものの、映画としては全体にチグハグでつかみ所のない作品だと思う。もう一度観ると、内容が理解できるかもなぁ……。

(原題:一代宗師 The Grandmaster)

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5月31日公開予定 TOHOシネマズ日劇ほか全国ロードショー
配給:ギャガ パブリシティ:P2、フラッグ
2013年|2時間3分|香港、中国、フランス|カラー|シネスコ|5.1chデジタル
関連ホームページ:http://grandmaster.gaga.ne.jp
関連ホームページ:The Internet Movie Database (IMDb)
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